【SF巨大生物】R E D ー僕が世界を救うその日までー【オリジナル】

装甲車にて ページ10

興奮気味に語る兵士をよそに、杏里は考えを巡(めぐ)らせる。

ミサイルすら効かない甲殻(こうかく)・・・加えてあの巨体。
どうにか安全区域まで運べたとする。
解剖(かいぼう)すらままならない代物から、一体どうやって情報を得るというのか。


「では杏里室長！十分後にお迎えに伺います」


踵(きびす)を返す兵士を、杏里が慌(あわ)てて止める。


「迎え？おいおい、俺をどこに誘拐(ゆうかい)しようっていうんだ」

「誘拐などご冗談を。死骸(しがい)発見現場です。《杏里室長同行のもと、状況・死因を速やかに検証し報告せよ》との命令なので。では、調査準備をお急ぎください」


兵士は指令書を強引に渡すと、足早に研究室を立ち去った。


「どうすれってんだ・・・」


俺に何が出来る。
バカでかいクソ蟲(むし)め。



杏里の前に再び兵士が現れたのは、きっかり十分後だった。
武装(ぶそう)した彼らに囲まれ、装甲車(そうこうしゃ)に乗り込む。
まるで囚人(しゅうじん)にでもなったようで嫌気がさす。

「我々の厳重(げんじゅう)な警備のもと安全に調査して頂きます」と兵士は言っていたが、これほど虚(むな)しい社交辞令もあったものではない。
B地区とはいえ、《ザムザ》が現れる可能性は低くはないのだ。


八ヶ月前。

《ザムザ》の出現により、この都市も全域壊滅(かいめつ)の危機が迫っていた。
しかし、一定期間の後、《ザムザ》の行動にある変化が訪れた。

侵略(しんりゃく)地域と捕食行動の減退(げんたい)である。

それを受け、生態調査研究機関では、危機レベルに応じて四段階に区分けする作業を行った。
安全区域と呼ばれるA地区から順に、B、C、Dと続き、南へ行くほど危険度が増していく。
そのため、軍や必要施設、民間人の住居は、安全区域内に集約されていた。

絶望的なのは、D地区の赤間山周辺一帯で、《蟲(むし)の巣窟(そうくつ)》とさえ呼ばれるそこには、何千という巨大蟲がひしめいている。

近づいたが最後、奴らの餌食(えじき)になるのが落ちだろう。


金網のついた装甲車(そうこうしゃ)の窓越しに外を眺めた。
遥か前方には赤間山が見える。

人を喰らい、世界を破壊した根源が住み着いた山。


午前八時半。
車は安全区域を抜けB地区へ進入した。

もうすぐ死骸とご対面だ。
ちっとも喜ばしくない見合いになるだろう。

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