【SF巨大生物】R E D ー僕が世界を救うその日までー【オリジナル】

少年 ページ2

ー2013年 夏ー


少年は、父と母が昼食のバーベキューの準備をしている間、登山道の脇にある野原に寝転び、
昆虫のスケッチをしていた。

ナナホシテントウ。

鮮やかなオレンジ色の体に七つの黒い斑点(はんてん)模様。
透明なプラスチックの虫かごの隅でじっとしている、珍しくもないこの虫を、かれこれもう
一時間は観察しているだろうか。


三日前、留学先のイギリスから一年ぶりに日本へ帰国した彼は、両親と共に赤間(あかま)山の麓にあるキャンプ場に来ていた。

キャンプにはさほど興味は無かったが、山と聞いて心踊った。
夏山に昆虫がいないはずはない。


彼は大の昆虫好きだった。
ただ、彼の興味を惹きつけてやまないのは、その生態系や能力、体内外の構造(こうぞう)にある。

例えば、蛹(さなぎ)から美しい紋様(もんよう)の蝶(ちょう)が生まれる神秘性。
バッタの驚くべき跳躍(ちょうやく)力。
未だ発見され続ける、未知数の可能性を秘めた新種の昆虫達。


そして、彼はひとり想像を膨らませ、遊ぶ。


もしも、オオスズメバチが好戦的な凶暴(きょうぼう)さや猛毒(もうどく)性を持ったまま、ヒトと同じ大きさに進化したら・・・。

もしも、蟻(あり)とヒトの大きさが逆転してしまったら・・・。
強靭(きょうじん)な顎で噛み砕かれる前に、踏み潰されてしまうだろうか。

少年は、時折笑みを浮かべながら、五枚目のスケッチを完成させた。


夏の日射しは、ほぼ真上から容赦(ようしゃ)無く照りつける。

午後一時。
そろそろ父が呼びに来る頃だ。

虫かごのてんとう虫をそっとつまみ上げ、草の上に放してやる。
もぞもぞと動いていたかと思うと、やがて翅(はね)を広げ勢い良く飛び去っていった。


薄緑色をした表紙のスケッチブックを閉じ、散乱していた鉛筆をペンケースにしまおうとした、
その時だった。

キイン・・と、耳鳴りのような音が聞こえた。
彼は一瞬、それを疑ったが、どうも違うようだった。

音階では表せないほど甲高い、不快感を感じる音。

なぜか胸が騒めくのを感じ、片付けていた手を休め、じっと耳をすます。
すると、またキイイイン・・と、今度は少し長く聞こえてきた。

どうやら、登山道の方に音の発生源はあるようだ。

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