カカオ72% Part 5

カタチ。 43 -side T- ページ26

ニカとAちゃんは
どうやら上手くいったらしい。

ニカからは直接聞いてない。
最後の忠告からAちゃんの話はしてない。



それでも分かるのは

「おはよ！裕太くんっ」

変わらずうちに来るAちゃんがめちゃくちゃ元気だから。



「おはよ、今日もよろしく」

「うんっ、最近使ってないシャツとタオル、一度洗っておこうか？今日からリハ本格化するんでしょ？」

「あー、助かる。出してくるよー」



メンバーが彼氏やらお兄ちゃんだとこういう情報も筒抜けだから
気遣いがありがたい。



Tシャツやタオルを持ってくると

「今年はツアーハズレちゃったの。だからDVD出るまで見れないんだー」

Aちゃんが言う。

「え、そうなんだ」

「一般発売もだめだった。悔しい」

ホントに悔しそうだから笑っちゃう。



「ご飯もタンパク質多めのにするね。あと疲労回復できるやつ」

「うん、ありがと」

「あと、中国語の電話もレベル上げる？少しスピード上げようか」

「助かるー。もうちょっと喋れるようになりたい」

「りょーかいっ」



敬礼するAちゃんは鼻歌を歌いながら洗濯機に向かう。



そろそろ出掛ける時間だから

「じゃあ、行ってくるねー！」

声をかけると

「行ってらっしゃーい！リハで怪我とか気をつけてね！」

パタパタ奥から走って玄関まで見送りに来てくれる。



「うんっ、ありがとう」

「行ってらっしゃい！」



眩しいくらいの笑顔で見送ってくれるAちゃん。



笑うと出来るミツそっくりの目尻のシワとか
ほっぺの上がプクッとするところとか
ぷっくりした唇とか

全部好きだったな。



「いってきます」

噛み締めるように言ったら少し不思議そうな顔をしたAちゃんは

「うん？…行ってらっしゃい」

キョトンとしてるけど。



そんなAちゃんの頭をポンポン、ってして
今度こそ、バイバイ、って心の中で呟いた。



ニカと幸せにね。

また喧嘩したら愚痴くらい聞けるようになれたらいいな。

でも、それにはやっぱりもう少し時間かかりそうだな。



リハ場に行くとメンバーはまだそんなに来てなくて。



ニカを見つけたから

「ニーカ」

声を掛けたら振り返るニカのほっぺに俺の指が食い込む。



「………何？」

「よろしくね、総合演出さんっ」

「…………うん？」



うりうり、と指でニカのほっぺを押して離れる。



ニカは何かを感じたのかもだけど

「いいライブ作ろうね」

って気づかないフリで笑ってくれた。

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