カカオ72% Part 3

つぎの一歩 22 -side T- ページ22

マネージャーが来るまでまだ時間あるから
リビングでAちゃんを待つ。

そろそろ仕事行かなきゃなんだけど。
まだマネージャー来ないし。



ガチャッ、と玄関が開く音。

続いてスリッパの音がしてリビングのドアが開く。

「あ、裕太くんだっ」

笑顔で明るい声のAちゃん。



最近は電話とLINEだけだから
久しぶりに会えてキュンキュンする。



「久しぶり」

「だねっ、毎日電話はしてるのにねー」



スーパーで買い物したものをテーブルに置いてくれながら
ニコニコしてるAちゃんの笑顔を見てたら
こっちまで嬉しくなっちゃって。



「ね、ハグしていい？」

「え？」



聞き返すAちゃんがイイともダメとも言う前に
思い切り抱き締めた。



「裕太くん？」

「あー、めっちゃ癒されるー。幸せー」

「あはは、大げさだよ」



笑うAちゃんの声の振動すら愛しい。

あー、今日のお仕事頑張れそう。



「ね、裕太くんのドラマ、めちゃくちゃ面白いっ」

「ホント？嬉しー」

「今のクール、裕太くんのドラマだけになっちゃった」



俺を見上げてニコニコ話すAちゃんに

「あれ？ニカがオススメしてたドラマは？」

普通に聞いちゃうと一瞬笑顔が引き攣っちゃったが見逃せないくらい
Aちゃんの変化に敏感になっちゃった。

「録ってたけどもう見てないんだっ」

明るい声だけど張り付いた笑顔でAちゃんが言うから
ニカと何かあったのが丸わかり。



「……ニカと、なんかあった？」

「何もないよ」

「嘘つきっ」



ムニッとAちゃんのほっぺを摘むと柔らかくて。

ほっぺへのチューは唇しか触れてないから
肌感とか分かんなかったし。
え、何この感触。
ヤバ、めちゃくちゃドキッとした。

Aちゃんって女の子なんだな、って



なのにAちゃんは俺のドキドキなんて知らないし

「私の彼氏は裕太くんでしょ？彼氏以外の人が勧めたドラマなんて見ないもん」

なんて設定に忠実な返ししかしないから
ガッカリするし寂しい気持ちになる。



あーあ、自分でお願いしたとはいえ
何でこんな事になっちゃったかな。



「全く、俺の彼女さんは素直じゃないね」

「素直だよ、裕太くんの演技大好きなんだもん。毎回惹き込まれちゃう」



Aちゃんが俺の演技が本当に好きなのは
まっすぐな瞳で言うから本音なのは伝わる。



でも演技が好きなのは今の設定も含めてなんだろう。




本当の『玉森裕太』は？

なんて、怖くて聞けないよ。

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