Quite Talk

ジンクス(すぐ近くにいる ki) 7 ページ15

宏光の腕の中が
好きすぎた。

ホッとするし
体温も心臓の音も心地いい。



「A」

呼ばれてさすがに気持ち良くなってたから

「なに？」

反応しちゃうと宏光が

「……やっと声聞けた」

嬉しそうに笑う。



ダメだ。

このままだとまた流されちゃう。



でも

「お願いだから、別れるの取り消して」

宏光は言う。



「いつか今日の事を『こんな事あったよね』ってAと笑いたい」



宏光が必死になってるのは
ただの同期だった頃からの長年の付き合いで分かる。



だけどどうしていいか分からないから
『うん』って言えない。

「………」

また黙っちゃう私に宏光が笑ってる。



「だよな、俺でも無理だと思う」



ぽんぽん、って背中を叩かれて。

終わったな、って思った。



でもこれでいいんだよ。

私も宏光も辛い思いまでして一緒に居なくていいし。



この腕の中が最後だな、と思ったら
また涙が止まらない。



鼻をすすっちゃうと気づいた宏光が

「………どした？」

私の顔を覗き込んでくるから泣き顔を見られたくなくて
宏光から顔を背けようとしたら

「ん」

顔を宏光の方に向けられちゃう。



多分ものすごくブサイク。

泣くの我慢してるからすごい顔になってる。



「なぁ、Aはまだ俺の事少しは好きでいてくれてる？」



宏光はまた甘えた声で聞く。



「………もう、わかんない」

「ん、じゃー嫌いな訳じゃねーな？」



何も言えない。

どっちかって言ったらまだ好き。
ものすごく好き。

私に許してもらいたいって必死なのも伝わる。



「………」



また何も言えない私に少し笑う宏光は

「……そーだったな。Aはいつも一番言いたいこと言えないんだったな」

包み込むように抱き締める宏光はフワッと唇を重ねた。



温かい唇の感触。

唇を重ねた瞬間どうしようもなくときめいて
あぁ、私って宏光をものすごく好きなんだな、って思う。



長いキスの後

「…改めて、ごめん」

優しく語りかけるように言う宏光は

「Aが本当は寂しがり屋で、優しくて、俺が嫌になるだろうから、ってそればっか気にする子だったのをすっかり忘れてた」

私の目をちゃんと見て言う。



「もう一回、最後のチャンスくれない？」



真剣な目。

嘘をつけない宏光の目がまっすぐ私を見てて。



「これからはAの笑顔、守るから」



言い切る宏光を見て思い出した。

宏光はなんだかんだでいつもギリギリの所で
私を助けてくれてたな、って。

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