Quite Talk

ジンクス(すぐ近くにいる ki) 5 ページ11

支店での挨拶を終えて
1ヶ月住むマンスリーも手配してもらって
一度家に帰って
必要最低限の荷物を持つと
マンスリーに向かった。

マンスリーも支店も
奇しくも宏光とよくドライブした通り道沿い。

支店からは宏光に告白された場所が見えて
マンスリーは指輪を買う約束をしてくれた駐車場の目の前だった。



事務所から離れた意味ないよ。



でもここで1ヶ月頑張ってここがただの風景になる頃
宏光と彼女を見ても大丈夫になるかも。



荒治療だけど、何とかなるよ。きっと。



キャリーをガラガラ引いて歩いてると
宏光とキスをした路肩に近づく。

『俺はお前をほっとかないからな』

そう言ってくれた宏光を思い出してまたじわっと涙が溢れてきて

『あのなー、俺はお前が思ってる以上にお前のこと好きだからな？』
『先輩が結婚前提とか言ったかもしんないけど、そんなん俺の方がずっと前から考えてっから』
『だからもう不安にさせないから』

色々言ってくれた駐車場を横切る時に涙が零れた。



嘘つき。

全部、嘘じゃん。



ほっとかれてるし
私の事好きじゃなくなってるし
結婚の話全然出ないし
不安にしかなってない。



これなら嫌いになれるかな。

あと少し時間が欲しいけど。



メガネを外して
涙を拭ってしゃくりあげながら歩く。



「あぶねーぞ」



聞き覚えのある声がする。



思わず立ち止まったけど
声の主に気づくとまた歩き始める。



気のせいかな。

気のせいじゃなかったとしても
もう他人だもん。



ぐしぐし、と腕で涙をぬぐって
さっきよりも歩くスピードを上げた。



と、キャリーをグッと引かれて

転ぶと思ったらキャリーは手から離れて
腕の中に包まれる。



胸いっぱいに広がる
大好きな香り。



「………ごめん」



呟く声の主は切なそうな声をしてる。

いよいよ溢れる涙。



「離して」

「やだ」

「離して。大声出すよ」

「出来れば出さないて欲しいけどある程度は仕方ねーな」



相変わらずの口調で言うから腹が立つ。



「やだ、離れて」

「離さねーよ。やっと捕まえたのに」



グイッて声の主の宏光の胸を押すけど
それ以上の力で抱きしめてくる宏光は

「いま離したら一生後悔する。ぜってー離さねーから」

腰までギュッと抱きしめると

「俺がいっっっっちばん、……や、2番も3番もねーな。大切にしてて大好きで幸せにしてーのはAだけ」

今更なセリフをはいた。



そして

「不安にさせてゴメン」

呟くように、言った。

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