すぐ近くにいる another story 8

シロツメクサ Ki -side K- 61 ページ10

太輔たちが帰った後。

少ししてピンポン、とチャイム音。



あれ？
忘れものか？



スマホを見るけど
太輔から連絡はない。



ドアを開けると
そこにいたのはAさん。



「今日、早く終わって」

少し照れくさそうなAさん。



え、こんな時間に？

まだ20時とかだけど。



ただ、Aさんが戻ってきてから俺から誘ってるんじゃないのに
来てくれたのが初めてだったから嬉しくて
頬が緩む。



「…とりあえず、上がる？」

「いい？」

「もちろん」



おじゃします、と上がるAさん。

『ただいま』って言ってくれる日が来たらいいのに。
なんて思っちゃう。



気持ちがぐちゃぐちゃだった。

これ以上踏み込んでいいのかな。



Aさんと過ごすのが幸せ過ぎて
自分の行動がきっかけで失う事になるのが嫌すぎる。



でもせめて

「ヒロ」

名前で呼ぶのは許してくれないかな。



呼んでみると顔を上げるAさん、いや、ヒロは
少し嬉しそうに見える。



「なんか飲む？ビールか酎ハイか。あ、ハーブティーとかもあるけど」

「え！ハーブティー？」

「全然寝られなかった時にねー。あと妹が授乳してる時飲めるヤツとか言って弟が置いてった」

「へー、飲んでみようかな」



ニコッて笑うヒロ。

激カワ。



「ん、いれるねー」

水を入れてケトルにスイッチを入れると

「…なんかここでお酒以外のもの飲むとか不思議だね」

ヒロが柔らかく笑う。



「えー、失礼じゃない？入れるよー？ハーブティー」

「あはは、そうだよね」

「朝だってコーヒーいれるしさー。あ！ジューサー買ったんだよ」



好きな野菜食えるし
寝られない分作ってみるのもいいかな、と思って。

この前のペンギンのぬいぐるみを買ったお店で買ってみた。



ちょうどその日がペンギンを勧めてくれたAさんの最終出勤日だったらしく
「最後に会えて良かったです！」って言ってもらえて
結婚するって言うからお祝いでたまたま持ってた
うちのメーカーのいいボールペンをプレゼントした。



ジューサーを見せると
ヒロが微笑んで言う。

「そうだよね、野菜ジュース好きだもんね」

「へ？」

何？と思ってると。



「毎日飲んでるよね野菜ジュース。誕生日にもくれたでしょ？」



ヒロに言われてびっくりした。

毎朝野菜ジュース飲んでるのに
気づいてたなんて。



誕生日に野菜ジュースあげたのはたまたまだったし。

覚えててくれるなら
もっといいものあげれば良かった。

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