すぐ近くにいる another story 8

シロツメクサ Ki -side K- 60 ページ9

確かに太輔の言う通りだ。

どーも踏み込めないのは
Aさんの職業的に
俺が本気だと思ってもらえなかったり
Aさんの複雑な家庭環境から
同情してるって思われないか、って思っちゃうからだった。

太輔が分かってくれてたのが嬉しくて
泣きそうになる。



俺が泣きそうな顔をしたから

「…ごめん、みつ兄」

Aが申し訳無さそうに言うけど

「や、確かにAや太輔に言いたい放題だし」

そりゃAからしたらそーだろうな。



「うん、そーだよね。みつ兄はずーっとたい兄には優しいのに私には厳しいもん」

Aがジロッて睨んでくる。



「んなことねーよ、太輔にだってめちゃくちゃ怒った事あんじゃん」



一度だけ太輔を殴った事があった。

とーちゃんが亡くなって
自分だけ血が繋がってないから、って勝手に家出した時。



ただ確かにそん時以来太輔を怒った事ないし

「つーかそもそもAがいつも俺を怒らせてんの！太輔はAみたいにワガママ俺を困らせたりしないわけ！」

Aには怒りたい事がいっぱいあったからな！



と、そこまで黙ってた太輔が

「なら兄貴に俺もたまにはワガママ言ってみていい？」

珍しくおねだり顔で俺に言う。

「…なんだよ」

嫌な予感しかしねーけど。



「ちゃんと隣のお姉さんに自分の気持ち伝えて？」



やっぱり太輔は意地悪なお願いをしてくる。



つーかさっきは

「俺の気持ち分かるって言ってくれてたじゃん」

なのにそれ？



「うん、分かるよ？でもそれよりも兄貴がその人に気持ちを伝えて欲しいなって思うんだよね」



太輔に諭されるよーに言われると
そっか、って思っちゃう。



「…さすがたい兄」

「兄貴はこう言う方が聞くからね」



Aも太輔も俺がいる目の前で言うから
どーもしっくり来ないけど。



「とりあえずさ、鍋とかつついてみたら？」

「鍋？」

「時期的にも美味しい季節じゃん。兄貴肉ばっかで野菜食わないし」



太輔はドン、とテーブルに土鍋を置く。



「え、たい兄これうち用にさっき買ったやつじゃん」

「いいじゃん、きっかけあった方がいいよ」



太輔はニッコリ笑って

「ね、兄貴。鍋でも囲んで腹割って話しなよ」

って言うけど。



「…デカくね？」



これ、4人とかでするサイズなんだけど。
デカすぎだろ。



「お隣さん、名前なんて言うの？」

「Aヒロだって」

「へー、みつ兄の昔の呼ばれ方と一緒だね」

「な」



そこがまたいいな、って思う。

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