すぐ近くにいる another story 8

シロツメクサ Ki -side K- 58 ページ7

寂しかった、とか
めちゃくちゃかっこ悪い。

でも一番言いたかった。



腕の中の
Aさんは
しばらく震えていた。

もう大丈夫だよ。

そんな気持ちを込めて抱き締めたら
少し探るように
俺の背中に腕を回して
弱々しくだけどギュッと抱き締め返してくれる。

ポン、ポン、とゆっくり背中を叩くと
さっきの男からの緊張から解放されたからか
フッと腕の力が緩むし震えも収まってる。



ホッとした。



そして体重を俺に預けてきてくれるAさん。



…あ、嬉しっ。



思わずまたギュッて抱き締めちゃったトコで
マンションから人が出てきて我に返る。



「…帰ろ」

Aさんが小さく呟く。

『行こう』じゃなくて『帰ろう』なのが
帰って来てくれたって事で。

嬉しくて

「ん」

頷く。



でもまた居なくなっちゃいそうで
不安だから手を繋ぐ。



繋いだ瞬間感じる既視感。



……何だっけ、この懐かしい感じ。

少なくともこの前ツカサの妹のAと手を繋いだ時とは違う
何処か懐かしくて胸がギュッとする感じ。



やっぱ好きだ。

Aさんがすげー好きだ。



改めて思う。



エレベーターに乗ったタイミングで

「……さっきの人、何？」

聞くとビクッ手が反応するAさん。



あ、聞かれたく無かったのかな。

パッと見は普通の人に見えたけど。



「…お客さん。正直、少し苦手な感じの」

「そっか」



そーゆーお客さんでも
対応しないとなんだよな。



「…良かった、いいタイミングで帰ってきて」

ギュッてAさんの手を握ると

「………」

Aさんも握り返してくれる。



俺がAさんの助けになったなら
本当に良かった。



何で避けたの？

どうして帰って来なかったの？

今までどうしてたの？
もしかして彼氏とか出来たの？

その人と一緒に住み始めたの？



聞きたい事はたくさんあった。

この手を離したらまたAさんが居なくなるかもしれない。



でもどうでも良かった。

また会えただけで相当満足していた。



いつものように家の前で別れる。

「これで、入ってきて」

キーケースから離して鍵を渡すと

「うん」

受け取ってくれたってことは一緒に寝てくれるってことで。



少ししてやって来たAさんは

「…鍵、ありがとう」

やっぱりそのまま鍵を返してくれちゃうから。



この一緒に寝る日々は永遠に続く訳じゃなくて
終わりが近いんだな、ってAさんから言われてる気がする。

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