サイボーグな彼女 16

after 二度あることは 28 ki ページ10

試写会から帰る前に
一服しようとすると
喫煙所に河井さんと数人スタッフが居た。



「「お疲れ様です」」



挨拶しあってから
メンバーにAの無事を伝えるLINEを打ってると

「北山さん」

河井さんから声を掛けられた。



「また一緒に仕事させてください」

すごく真剣な顔で河井さんは言う。



「その時にはもっと今よりさらにいいもの撮れるようになりますから」



河井さんの顔が
本当にまっすぐ俺を見てるけど。



目線の奥が全然違って
河井さんは俺の向こうにいるAに
本当は伝えたかったんだろうな、って思う。



そして、河井さんが出した答えが
きっとコレなんだろう。



だから

「…もちろんっ！むしろ偉くなってドラマ撮る時は全部俺を指名してください」

少し明るく言うと

「えぇ」

河井さんはいい顔で笑って握手を求めてくるから
握手をした。




それから数ヶ月後。



ものすごく久しぶりのオフに
サウナの後にキンキンに冷えたビールが飲みたくて
都バスに乗ってサウナに向かってた。

平日の昼間なのにまぁまぁ混んでたけど
帽子とメガネで変装したら全然バレないし。



ちょうどその辺りは
撮影所や編集のスタジオが多いところで
あーこのスタジオPVの撮影で来た事あるなーなんて思って外の風景を眺めていた。



と、バスが停まった時に
年配のおばあさんが乗ってきた。



席を立とうとしたら
俺の前の人がスッと席を立って

「どうぞ」

おばあさんに声を掛けていた。



聞き覚えのある声。
よく見ると河井さんだった。

なんとなく無意識に顔を見られないように
外の景色に目をやる。



「ありがとう」

「いえ」


バスの窓に映る
河井さんとおばあさんのやり取りをぼんやり眺める。

窓越しでも分かるくらい
河井さんは晴々した顔で笑っていて。



何だか前より優しい雰囲気になったな、なんて
思う。



そのタイミングでスマホが震えてAから

A明日のスケジュール変更になりました

社用スマホに連絡が来ていて
添付で朝早くなったスケジュールが届いて

A泊まりに来ますか?

私用スマホに一言来てた。



宏光ん



AにどっちのLINEにも同じ一言を返してスマホをしまうと
ちょうど河井さんが降りるところで。



凛とした顔で颯爽と歩く河井さんは
どこか吹っ切れたような顔をして歩いていた。

after ただ君と 1→←after 二度あることは 28

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す