サイボーグな彼女 16

after ただ君と 16 ki ページ42

キヌエさんが息を引き取ったのは
それから約１ヶ月半後のAが休みに入って1週間経った頃。

雨が続いていたのにその日だけはとても天気のいい日だった。



Aたちの決断の後で家に介護ベッドを入れてから帰ってきたキヌエさんは
最初の1ヶ月は元気で。

俺の舞台もあったから何だかんだAも休まなくて休演日の日に休んで会いに行ったけど
俺はグループの仕事があったからさすがに行けなくて。

舞台が終わった次の日からAは休みを取り福島に帰った。



Aが着いてから最初の3日はすごく元気だったらしく
キヌエさんと穏やかな時間も過ごせたらしい。

弱ってからキヌエさん自体が苦しそうだったのは最後の1日だけだった、ってAは言っていた。

そのまま忌引含めてプラスで1週間休むことになって
結果トータル2週間の休みで収まることに。



『おばあちゃん、まるで私が忙しくなくなるのを待っててくれたみたいだよね』



キヌエさんが亡くなった日の夜
Aが電話で報告をくれた時に言う。



「そうかもな」

『うん。少しの間だったけどおばあちゃんとのんびり過ごせたよ』

「そっか、良かったな」

Aは最後にキヌエさんとの時間が過ごせたから
後悔は無さそうで良かった。



お通夜も葬式もさすがに俺は休めず
代わりにメンバーとマネージャーを代表して杉山ちゃんが香典を持って行った。

みんなに内緒でコッソリ俺が別で渡した香典と共に。



だから

「Aさん、さすがにやつれてたッス」

戻ってきた杉山ちゃんが俺だけしか居ない時に言う。



「でもみんなには『元気だった』とか『淡々としてた』って言っといてくれ、って言ってました。でも北山さんにはホントの事言っておこうと思って」

悲しそうな顔をして『だからみんなには内緒ッスよ』って力無く笑う。



無理もない。
キヌエさんはAにとって母親みたいなもんだし。



帰って来る前の日に電話くれたAに

「品川まで迎えに行くか？」

聞いても

『いい』

相変わらず冷たい反応のAだけど。



『宏光に話したいこと、沢山あるよ』



滅多にないAからの甘えた言い方にキュンとして

「おー、俺も早く会いてぇな」

素直に言えた。



『………』



しばらく黙っちゃうAは

『照れくさいから切るね』

おやすみ、って切ろうとするから慌てて

「あ、気をつけて帰ってこいよ」

付け足したけど聞こえてたかどうか。



頑張った分すげー甘やかしてやるからな。

after ただ君と 17→←after ただ君と 16

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す