サイボーグな彼女 16

after 二度あることは 27 ページ6

宏光が近くに居るなら
怖くない。

ドアは厚いらしく
声を張らないと向こうでどんな会話をしてるかまでは
集中して聞かないと聞こえない。

ただ、時折聞こえる宏光の声が
ちゃんと近くに居てくれるのが伝わって
とても安心する。



それなら
仕事していようかな。



カバンからタブレットを出すと
メールのチェックをはじめた。



あ、次のバラエティの台本が来てる。

台本を確認して
先方に受領した事と確認したい事を返信する。



宏光の舞台の追加資料も来てて
目を通していると

「…ごめん」

ふと河井くんが言う。



さすがに今回の事は
河井くんがどうこうとかないはずだ。

だから

「いえ、別に河井さんのせいでは…」

言いかけると

「いや、これじゃなくて」

私の方に向き直る河井くん。



「昔の事、謝りたくて」

重い口調で河井くんは言う。



さすがにもう逃げられない。

それに、これでスッキリして
河井くんには私の事を忘れてもらいたい。



だからタブレットを閉じて距離を保ったまま
椅子から立ち上がった。



向き合った私に
緊張した顔をする河井くん。

「…聞いてくれるの？」

「もうこの話終わりにしたいんで」

私が言うと
河井くんはハッとした顔で私を見る。



そのまましばらく無言だったから
私も無言でいると

「………そっか」

河井くんは本当に悲しそうな顔をした。



何でだろう？

お互い終わった方がスッキリするはずなのに。



「俺がした事って取り返しがつかないことだって、ようやく分かった」

悲しそうにつぶやく河井くんに
何でそう思うのか分からない私は
全くリアクションが出来ない。



だから

「…私には本来人にあるはずの感情が欠落してるので。金輪際過去の事は気にしないでください」

そう伝えると悲しそうに首を振って

「いや、そうじゃなくて…」

河井くんが言ったタイミングでガチャガチャ、とドアから音がして扉が開いて光が差し込んくる。



「開きました！」

って声とパチパチ、と拍手の音。



そして入ってくるスタッフさんたちと宏光。



「「暑っ！」」



入ってくる皆さんの感想。

きっと夏だしエアコン効いてなかったし密閉されてたから
ムワッとした熱気が出たんだろうな。



宏光は心配してないフリをした顔で私を見て

「ん、無事だな」

「はい。ご心配おかけしました」

お辞儀をすると

「ん」

ポン、と私の肩を叩いて笑う。



河井くんとはスタッフに紛れて距離が出来て
それっきりだった。

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