すぐ近くにいる another story 3

秘めた想い T -side T- 1 ページ43

採用試験の日。
俺はものすごく緊張していた。

ずっと憧れてた会社だったし
大学の緩い感じがもう嫌だったし
バリバリ働きたい。

とにかく早く大人になりたかった。



その気持ちが焦ってたのか早く着きすぎて
会社の前でどうしようと思ってたら
スーツの肩に何か気配を感じる。

ん？

と思ってたら鳥の粗相がついていた。



…嘘だろー！？



ジャケットを脱いでどうしよう、と思ってたら

「あのー…」

声を掛けられる。



振り返るとリクルートスーツを着た女の子。

この子も試験なのかな。



「それ、大丈夫ですか？」

「大丈夫なわけねーじゃん」

焦ってる俺は言い方がキツくなる。



完全八つ当たりだ。最低だな俺。



「ですよね」

でもその子はそう言ってティッシュを出してくれる。



「貸してください」

そう言うから黙って渡すとティッシュでそっとできるだけ取りながらその子は

「ミネラルウォーターありますか？」

なんて聞いてくる。



辺りを見渡すと自販機があったから慌てて買って戻るとその子は封を開けてティッシュを少し濡らしてポンポンとジャケットを叩く。

さらにまたティッシュで拭くとほとんど分からなくなった。



「はい」

「…ありがとう」



受け取りながらお礼を言うとティッシュを片付けながら

「この後入社試験ですか？」

「うん」

「一緒ですね」

なんて言って水を返してくれる。



「縁起いいですよね、運がつく、って事で受かりますよきっと」

なんてその子は笑ってくれる。



「あ、でも手は洗って下さいね。菌たくさんついてるって言うからそのままその手でご飯食べないで下さい」

「食べねーよ」

さすがに手は洗うよ。俺も笑っちゃう。



「あくまで応急処置なんで家に帰ったらクリーニングして下さいね」

「うん、ありがとう」

「お互い受かるといいですね」

なんて言ってその子はコンビニに向かって歩き出す。



受かるといいな、と思ってはいたら
その時もその後も試験会場で見掛けた。

そして
入社式では斜め後ろに座っていた。



これは運がついたのかな。


なんて思ってたけど。



新入社員の自己紹介の時に
がっつり目と目があったのに
あっ、とか
久しぶり、って反応が全く無かった。

「AAです。よろしくお願いします」

普通の挨拶だけでじっと見ちゃってる俺に特にリアクションも無くて。



なーんだ、覚えてないのか。

思った以上にガッカリしてる自分にも正直驚いた。

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