拾ってください。

特別な日に 9 T ページ41

止められなかった。



同じ気持ちって言って
嬉しそうに泣いてるAを見たら。

Aは1人じゃないよ、って伝えたかったし
俺がAを大好きなことも伝えたかった。



そして俺は
前に話してくれた
いま演奏家か指導者の分かれ道にいる事を話してくれた事を思い出していた。



多分今まで周りはライバルだらけだし
アスリートと一緒だろうな、って。

ピアノの世界がどんな世界か分からないけど
「同じ気持ちで嬉しい」って泣くAを見てたら

最近だけなのか今までずっとか分からないけど
誰かと同じ気持ちになることがなかったのかなって思ったら



少なくとも俺はAと同じ気持ちだよ。

今のAには俺がいるよ。



そう伝えたくて。

ものすごくAに対して愛しくてたまらない気持ちになったら
キスしちゃってた。



あ、やばい。



そう思ったんだけど
Aの唇の感触が気持ち良くて。



そっと離れたらAがびっくりして俺を見てた。



そりゃそうだよね。

彼氏いた事ないって言ってたし多分ファーストキスなんだろうね。



でも止められなくて。

Aはじっと俺を見てて
でもその顔が嫌そうじゃなかったからもっとしたくなって。



「…目、つぶって」



そう言ったら嫌ならダメって言うし
怒ってたら怒るだろうと思ったけど
Aはそっと目を閉じてくれたから

またキスをする。



波の音がして。

少し風が吹いていて。



ものすごく気持ち良い。

空気感も、Aの唇も。



そっと唇を離すとゆっくりAが目を開けて。

「………」

無言で俺を見てる。




だから

「好き」

そう言ってAを見つめる。



「…何が？」

まっすぐAが俺を見て聞いてくる。

「Aが」

そう答えるとAはまたじっと俺を見てる。




「私は…まだわかんない」

Aがまっすぐな目で答える。



素直だよね、Aは。

多分俺のこと好きな訳じゃなくて
でも少なくとも嫌いな訳でもなくて。

多分俺のことどう思ってるとか考えたことないんじゃないかな。



「うん、別にAとすぐにどうこうなりたい訳じゃないから」



俺の仕事的にも恋人になったら大変なこともわかる。

けど、俺がAを好きなことと
軽い気持ちでこんなことした訳じゃないことを知ってほしかった。




…ホントの俺を知ったらAは離れちゃうかな。



離れちゃう日が来ると思うと怖くて。

不安を吹き消すようにまた唇を重ねた。






最低だ、俺。

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