拾ってください。

Prolog ページ1

…ダメだった。



ピアノを続けて25年。

今日もコンクールで落選した。
しかも今回は予選で。



小さい頃は天才でも
大人になると凡人とは言ったもので。



2歳から始めたピアノ。
子供の頃はそこそこ上手くて
中学高校大学くらいまではコンクールでも優勝しなくてもそこそこ上位だったから
いつか優勝できるかも、と続けていたけど。

ここ数年はコンクールに出ても全然いい成績が出ない。



さすがに27歳になっても仕事してないのはマズイから
音楽教室で子供たちに教えたり
楽器教室で契約してたまに休みの先生の代わりに教えたり
楽団のピアノが必要な曲で数曲弾いたりしていた。

ピアノ以外の仕事をしなくてもそこそこ程度生活していけるレベルにしか稼げなくて

そろそろ思う。



教えるのに集中するか
演奏に集中するかの別れ目じゃないかな、って。

いやむしろ多分遅いレベル。



友達たちは25歳くらいでだいたい見切りを付けてる。
もしくは結婚して教える側に切り替えた子も多い。

私は何となく賞も取れてたから
そのまま続けてたのが良くなかった。



親からはあと2年で…いま27歳でもうすぐ28歳になるから
要するに30歳までに結果が出なければ
実家の岐阜に帰ってこいって言われている。


岐阜に帰ったらさすがにいまみたいなピアノの仕事はほぼ皆無だろうから
多分お見合いさせられて結婚して終わりだろうな。


来年焦っても手遅れだから
今のうちにちゃんと考えておかないと。



でもなー。

弾くのも教えるのもどっちも楽しい。

コンクールは辛い。



けど何も結果出さずに終えるのも嫌だし。



せめて今年何か賞を取れたら
どっちかに決められるな。

賞を取ったらコンクールに出るのは終わりにして
演奏か教えるのどっちかにしよう。



なんてフワッとした気持ちで出てたのが
周りにも伝わったんだろう。


まさかの予選落ちで。



審査員をしていた知り合いの先生からも

「コンクールは甘くないよ。軽い気持ちなら出ないでね、他の人に迷惑だから」

と本気で叱られた。



…もういっそピアノを辞めちゃおうかな。





そう思ってた2018年の夏のある日。

あなたに出会った。

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