すぐ近くにいる another story

お隣りさん S 7 ページ32

あれから。

色んな店に飲みやご飯に行った。



週1でご飯に行って
週2くらいでスーパーに行って。

たまに通勤や帰宅が一緒になって。



会わない日の方が少なくなる。



呼び方も「A」「健永」に変わって
お互いの過去の恋愛の話もして

「健永にはなんでも話せるんだけど」

なんて言われて有頂天になる。



ねぇ。
少しは俺の事意識してくれてる？



でもそんな事聞けなくて。

今日も飲みに行ってほろ酔いで帰り道。



散々飲み屋でも笑ってて。

「Aがおかしいんだよ？あの映画の名言間違えたりするから！『私はもの言わぬ貝になりたい』だからね？『もの言わぬ砂になりたい』じゃないから！」

「でも砂こそ何も言わないじゃんっ」

「話す話さない以前の問題っ」

2人で笑いながら帰ってた。



ふと段差を見つけて

「ひろみそこ危な…」

まで言ったけど手遅れで
ひろみが躓いたから慌てて駆け寄って抱き締める。



今までの中で一番接近した瞬間。

思わずギュッて抱き締めちゃってひろみがびっくりしてるのが分かる。



あ、ヤバい。



慌てて離れて

「危ないなー、もうっ！」

ふざけて誤魔化す。



「あははー、ごめん。ありがとう」

ひろみは言うけど、ここ最近の付き合いで完全に動揺してるのが分かる。



何となく気まずい空気の中。

部屋に向かうとひろみの家の前に人影。



「……あ」

ひろみが立ち止まる。



人影をよく見ると男の人。

…これはもしかして。



人影がこちらを向く。

そしてひろみに気づいて頭を下げてる。



ひろみを見ると悲しそうな嬉しそうな複雑な顔をしてる。

察するに元カレなんだろう。



しかも頭を下げてるってことは。

謝りに来たってことだよな。



「ながとさん」

小声で声を掛ける。
聞かれても誤解されないように苗字で呼ぶ。



「ちゃんと話してきな」

そう言うと俺を不安そうに見上げる。



…そんな顔しないでよ。

奪いたくなるじゃん。

行かないでって。
今みたいに俺の横に居てよ、って言いたくなるじゃん。



つーか元カレも今更なんの用だよ、
ひろみを散々ほったらかして。

1度ひろみんちの前に来てから3ヶ月以上経ってるじゃん。



「じゃあ」

そう言って俺は家の中に入ることしか出来なくて。



少ししてひろみの家のドアが開く音と閉まる音がしてそっと外を見ると2人ともいなかった。

あぁひろみんちに入ったんだ。



ひろみの家に入ったなら
この恋はもう終わったな、と思った。

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