すぐ近くにいる another story

ヤマアラシな彼 2 1 ページ1

「というわけで導入したから」

「…はぁ」

「取り締まりよろしく」

「………わかりました」



課長の言葉に私は絶望しかなくて。
心の中では無理です宣言をする。



今日から会社が「フリーアドレス」を導入した。

PCのデータは共有サーバーに保存してあって、LANケーブルじゃなくて社内はWiFiで繋がっている。

要するに、ノートPCで仕事をするから席を自由に移動して事務所内ならどこでも好きなところで仕事が出来るようになった。

今までは事業部ごとに別れて仕事していたけど
例えば店舗開発の案件を開発部と営業部と経理部と打ち合わせしながら仕事する、とか
新商品の開発を企画部と営業部とで相談しながらする、とか。

今日は色んなアイデア考えたいから人が集まるところで仕事する、とか
集中したいから静かなとこで仕事する、とか。



その日の仕事によって好きな場所で仕事が出来るっていうシステム。



私のいる総務部は個人情報や人事を扱ってるから席を動かすのはリスクが高いから固定。

他の部は自由に動いていいことになっている。



ということで。

総務部は皆がちゃんとフリーアドレスを活用してコミニケーションを取ってるかを確認しろって上司は言う。



ただでさえいまの20-30代はコミニケーション不足だっつーのに。
33歳の私ですらコミュ障だし。




わざわざ他の部の人と話しながら仕事なんてする？



なんて思ってたけど。

蓋を開けてみたらまぁまぁ活用されていた。



元々仲がいい人同士で近くに居たり、部の中の先輩後輩で指導したり相談したりしながらやってたり。

プロジェクトメンバーで固まって仕事していたり。



…なんだ、使うんだ皆。



ところが。

「ねーAさん」

開発部のクリエイターさんに声を掛けられる。



「集中ブース使いたいんだけど、そこから動かない人が居て…」

見ると営業部の男の子が場所を使っている。



「デザイン考えるのに使いたいんだけど全然空かなくて」

「…なるほど」



この『集中ブース』１箇所は特殊で、周りの音を遮断して仕事ができるよう色々工夫していた。

ただここを利用制限していなかったから「空いてるのに使っちゃダメですか？」って言われたら弱い。



「ごめんなさい、まだここ利用制限付けてなかったから今日は我慢して貰えますか？明日からは文句言えるようにするんで」

「…わかりました」



わかったって言いつつすごく不満そうなその人。



…あーもう面倒なことになったー。

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