逃げたい ページ40
「何がバレンタインだコノヤロー!!」
「…」
…そんな声が聞こえて、私は思わず現場へと進めていた足をピタリと止めた。そしてその場で眉間を押さえた。もうこれ以上一歩もそちらに歩きたくはなかった。このまま回れ右をして、もっと違う場所にあるスーパーを目指すことにして、何もなかったかのように帰りたかった。チョコを作る材料なんて何処だって準備できる。何も大江戸スーパーに固執する必要はない。逃げたい。とても逃げたい。けれど私にはそんなことは出来ないのだ。何故なら。私は警察だからだ。江戸の平和を護る真選組だからだ。懐に手を入れればその証拠である警察手帳が入っている。
だから、不審者を目の前にして逃げることなんて許されない。取り締まることから逃れようなんて考えている時点でいけないことだ。けれど。
…目の前でおかしなことばかりを大声で発しているその不審者が、めちゃくちゃ知り合いだったのだから逃げたくもなる。言い訳のようで申し訳ないけれど、無理もないことだと思いたい。
「ドイツもコイツもチョコチョコ騒ぎやがって!!こちとらなァ!!毎年毎年なァ!!」
…バレンタインという一日が憂鬱で憂鬱で仕方ねェんだよオオォ…と。
その人物は風にはためくバレンタインチョコの宣伝の旗に散々怒鳴ってから、やがてオイオイ泣きながらにうずくまった。周りを歩く人はそんな彼を哀れみに満ちた視線で見ては、見なかったフリをするように通りすぎる。誰一人として、何とも哀れな彼に手を差し出すことも、震えるその背中を擦ることもない。この凍えそうな風のように、周囲から注がれる彼への視線は冷たい。
彼はきっと分かっているのだと思う。ただバレンタインの季節を告げるだけのために用意された旗に八つ当たりをしようと、どうにもならないことくらい。
彼はきっと知っているのだと思う。そんなことをしたって、今よりもっと悲しく、虚しい気持ちになるだろうということは。それでも、辛すぎる現実に嘆かずにはいられなかったのだろう。
…そして私は思う。あぁ、この人は、真選組の隊士さん達と同じように、どうしようもなくチョコを求めているのだと。
「……旦那」
「…A」
…私は何とも言えない気持ちになりながら彼に、万事屋の旦那に歩み寄り、彼の肩にポンと手を置いた。顔を上げた彼は、何よりも大切なものを失った喪失感にさいなまれているような、そんな悲壮感を漂わせた表情をしていた。
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雨散 - バレンタイン、妙ちゃんのチョコレートw (2019年8月5日 16時) (レス) id: c6b3012422 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 白桃餅子さん» 続編でもコメントありがとうございました!!そうですね、ギャグに力を入れてます!笑ってくれたなら嬉しいです!続編もどうぞお楽しみくだされば幸いです! (2018年3月12日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
白桃餅子 - バレンタインの話、面白いところがたくさんあって笑いが止まらないです! 銀さん大変なことになってるし(笑)続きも楽しみにしてます! (2018年3月10日 14時) (レス) id: 7a0c5e56cd (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - インクさん» 情緒不安定ですね…(笑) お願いします…!!可哀想なマダオ(笑)にチョコを恵んであげてください!! (2018年3月6日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
インク(プロフ) - 銀さん、情緒不安定なんだ...(さすがマダオとか思ってないからね!?)銀さんやればかっこいいしモテると思うけど素があれだからなぁ...義理チョコでもいいから、銀さんにあげたい... (2018年3月6日 20時) (レス) id: 2fb63eb0d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年2月11日 18時