見えなくて良かった ページ19
…不意に視界に沖田隊長が伸ばした腕が映って、次の瞬間には私の背中は彼の身体にくっついてしまっていた。ただ私を引き寄せるためだけの力を彼はその腕に込めて、私を腕の中に閉じ込めた。私は一瞬目を丸くさせて、そうして、「うぁ」なんて小さく声を漏らした。とても、間抜けた声だった。唐突なことに力が抜けて、抱えていた資料が畳にハラハラと散らばってしまう。けれど、それに気をとられるような余裕なんてやっぱり持てなくて。いつまで経っても、沖田隊長の腕の中は馴れない。もう何度も抱き締められているのに、相変わらず私は一人テンパってしまうのだ。
…それなのにきっと、彼だけが余裕な笑みを浮かべていて。
「すぐ逃げようとするから、ちゃんと捕まえておかねェとなァ?」
「…ッ」
…あぁ、そう言えば沖田隊長、ブラックモードのままだった。いつもより少しだけ低く響くその声に、私の肩はピクリと揺れてしまう。そんな私を面白がっているのか、沖田隊長は楽しそうにクツクツと笑っていて。今の体勢では顔を見ることは出来ないけれど、とっても真っ黒な、悪意しか窺えないような笑みを、彼は浮かべているのだろうということが容易に想像出来た。それは、見えなくて良かったかもしれない。
自然と小さくなってしまう声で、それでも私は口を開く。
「…わ、わわ笑ってなんてないですよ…」
「へェ、嘘つきにはお仕置きしてやんねェとなァ?」
「ごめんなさいすみませんでした笑いましたニヤニヤしちゃいました!!」
沖田隊長が含み笑いをその低いトーンをした声に混ぜながらそんな恐ろしいことを言うものだから、私は震え上がり一気にそう謝罪を述べた。言い逃れはもう不可能だった。罪を認めてこれ以上ない謝罪をするしか生き残る手はない。このままでは顔から火が噴き出して死んでしまいそうだ。
「…ごめんなさいもうニヤニヤしませんから……離してくださいませんか」
…背中は沖田隊長の身体に密着していて、接点から彼の体温が伝わってくる。その体温はとても落ち着くけれど、未だこういった、恋人らしいことに馴れていない私にとっては落ち着くにも落ち着けないもので。心臓がそろそろ爆発してしまうのではないかと本気で思う。どうして世の中の恋人達は平気で相手と抱き合って、その他諸々をすることが出来るのだろうか。それとも、こんなに死にそうになっているのは私だけなのだろうか。
兎に角私はそろそろ限界なため、解放して頂きたいのだけれど。
「ヤダ」
…沖田隊長はそんな一言で一蹴してしまうのだ。
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雨散 - バレンタイン、妙ちゃんのチョコレートw (2019年8月5日 16時) (レス) id: c6b3012422 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 白桃餅子さん» 続編でもコメントありがとうございました!!そうですね、ギャグに力を入れてます!笑ってくれたなら嬉しいです!続編もどうぞお楽しみくだされば幸いです! (2018年3月12日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
白桃餅子 - バレンタインの話、面白いところがたくさんあって笑いが止まらないです! 銀さん大変なことになってるし(笑)続きも楽しみにしてます! (2018年3月10日 14時) (レス) id: 7a0c5e56cd (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - インクさん» 情緒不安定ですね…(笑) お願いします…!!可哀想なマダオ(笑)にチョコを恵んであげてください!! (2018年3月6日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
インク(プロフ) - 銀さん、情緒不安定なんだ...(さすがマダオとか思ってないからね!?)銀さんやればかっこいいしモテると思うけど素があれだからなぁ...義理チョコでもいいから、銀さんにあげたい... (2018年3月6日 20時) (レス) id: 2fb63eb0d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年2月11日 18時