事例 ページ12
…そんな昔の記憶を思い起こしている間にも、隊士さん達の話はバレンタインという日そのものをどうにかして消してしまえないものかという談義に移り変わっていた。その目はもう据わってしまっているように見える。男の人というのはこんなにも、バレンタインに人生をかけていたのだと私は初めて知った。彼等にとって、とても、何よりも重大な一日となるのだろう。でなければあんなにも泣かないし、あんなにも真剣な顔はしないだろう。
生姜焼きをパクリとしながら、私は昔お母さんと作ったハート型チョコレートの作り方や手順をなんとなく頭に思い浮かべていく。簡単だし、すぐにでも出来るかもしれない。
「……つーかテメェら」
…と。ぼんやりと私が考え事をしていれば、隣からは沖田隊長のそんな声が聞こえてきた。なんだか、怒りの色を帯びたような、ドスの効いた恐ろしい声だった。そんな声に私も、そして隊士さん達もピクリと肩を揺らした。そして彼等はみるみるうちに青ざめていく。どうやら沖田隊長の怒りの矛先は私ではなく彼等に向けられているらしく。
「…人の女に何を然り気無くチョコたかろうとしてんでィ」
「ヒッ、ヒイイイッ!!」
…沖田隊長が尋常じゃない睨みを彼等に向け、隊士さん達三人はそんな悲鳴を上げては肩を寄せ合い、涙目になった。会話に参加していなかった周囲の隊士さん達も固唾を呑んでこの状況を見守っている。恐らくは参加していなくとも、聞き耳は立てていたのだろう。バレンタインといういちだいイベントに関する話題なら、無意識に耳を澄ませてしまうものなのかもしれない。
「お、おおお沖田隊長…!そんなつもりは決して…!!」
「言い訳は後から聞いてやらァ、取り敢えず山崎、斬られる覚悟は出来てんだろうな」
「なんで俺だけ!?ていうか斬っちゃったら言い訳も出来ないじゃないですか!!」
「関係無いね」
「何処のあぶデカですか!!」
あぁこのままでは収集がつかなくなりそうだ。沖田隊長は今にも左腰に下げられている刀を鞘から抜き出してしまいそうだし、山崎さんは沖田隊長の睨みを受けただけで固まってしまっている。これぞ、蛇に睨まれた蛙である。実例を初めて目の当たりにしてしまった。
これではいけない、と。私は大きく息を吸い込んだ。そして。
「分かりました!分かりましたから!!皆さんのチョコレート作りますからバレンタインに!!」
「え」
…沖田隊長の、そんな間抜けた声が聞こえた次の瞬間。食堂には「おおおお!!」という歓喜の声が響いたのだった。
1687人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雨散 - バレンタイン、妙ちゃんのチョコレートw (2019年8月5日 16時) (レス) id: c6b3012422 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 白桃餅子さん» 続編でもコメントありがとうございました!!そうですね、ギャグに力を入れてます!笑ってくれたなら嬉しいです!続編もどうぞお楽しみくだされば幸いです! (2018年3月12日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
白桃餅子 - バレンタインの話、面白いところがたくさんあって笑いが止まらないです! 銀さん大変なことになってるし(笑)続きも楽しみにしてます! (2018年3月10日 14時) (レス) id: 7a0c5e56cd (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - インクさん» 情緒不安定ですね…(笑) お願いします…!!可哀想なマダオ(笑)にチョコを恵んであげてください!! (2018年3月6日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
インク(プロフ) - 銀さん、情緒不安定なんだ...(さすがマダオとか思ってないからね!?)銀さんやればかっこいいしモテると思うけど素があれだからなぁ...義理チョコでもいいから、銀さんにあげたい... (2018年3月6日 20時) (レス) id: 2fb63eb0d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年2月11日 18時