そのバーテンダー、猫かぶりにつき【2j3j/男主】

その後の話：長尾と水雲 ページ43

『うわ、マジで吸ってんじゃん』


オリバーに聞いてAがよく煙草を吸ってるという人通りの少ない喫煙所へとやってきた俺は目的の人物を見つけて思わず指差してそういった。
その時のAの顔には間違いなく「来んなよ」って書いてあった気がする。


「…オリバーですね」

『Aいっかなーって思ってちょっと覗きに来た』

「あ、ちょっとストップで」

『んぇ？』

「私いますごく臭いんで近寄らないで」


Aは右手で俺を静止させてポケットから小瓶を取り出すと上空にシュッシュと吹きかけるとシャボンの香りが一帯に広がる。
匂い消しみたいなもんか、と大人しくその場で待機。
煙草の匂いくらい、別にいいのに。


『臭いって煙草の匂いっしょ？』

「吸ってない子に嗅がせたくないですからね」

『子ってｗ子供かよ』

「んー」

『いや否定しろって』


小瓶を再びポケットにしまうと別の容器を取り出してポイッと口へ運ぶ。
口臭対策も余念のないこの男はさすがというべきなのか、喫煙者はみんなこうなのかと、咀嚼する姿を見て思う。


「あんまり見られると恥ずかしいんですけど」

『思ってないっしょ』

「思ってたことにして下さい」

『俺結構Aのことわかって来てるぞ？』

「好きですもんね、私のこと」

『おう！』


基本嫌いな人間はいねぇし、まぁにじさんじには人外もいるけど一旦人間にまとめといて。
Aのこともほぼ同期で昔から知ってるし、年齢が同じ故話も合うし、人柄も申し分ないしで、こんな男を嫌いになる理由はない。
気配りも出来るしなぁ〜なんて思いながら黙っているAに視線を向ければ…


『なに？顔赤くね？』

「景の底抜けの明るさと素直さに動揺しまくってます」

『なんそれｗ』


手でパタパタと顔面を仰ぐAの、あまりみたことない表情。
そんな表情を俺がさせたのかと思うと、なんとなく嬉しくて少しばかり足元が弾む。
まぁ何がAの琴線に触れたのかわかんねぇんだけど。


「わかってなさが景っぽいですよね」

『え？俺馬鹿にされてる？』

「いいえ、褒めてます」

『ならいっか！』


人通りの少ない廊下をのんびり喋りながら歩いて、これから収録だなんて思えないくらいリラックスして。
隣を歩くAの心地いい声色をもっともっと聞いていたいと思ったところで、こちらに駆け寄ってくるスタッフ。


「収録、頑張りましょうね」

『だな』


行きましょう景、と俺の名を呼び微笑むAの肩を返事代わりに拳で軽く叩く。
ほんのりとシャボンの匂いが鼻を掠めた。

　

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