キャンバス (ページ22)

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穴場の喫茶店で国宝とページ22

吉沢亮の思い出の続き(2018年3月26日)

数か月ぶりに会ってもこれといって大事な用事や大事な話があるわけでもなく、何をするでもなく。

俺もAも仕事の話ばっかりで色気なんてこれっぽっちもないけど、それでも久しぶりの二人の時間は居心地がよくて。
他愛もない話で盛り上がって、ただただのんびりとゆっくりした時間を過ごした。

「そういえば」
すでに空っぽのグラスを両手に持ちながら話しかけるA。

「ちちんぷいぷい、今日はおつかれさまでした～」
見てくれてたんだな、と嬉しくなる一方でAは「人気者は大忙しだねえ大阪まで」、なんてやや茶化し気味に言うので、俺も茶化し気味に浅い会釈をしながら「ありがとうございます～」と返すと、グラスについた水滴を紙ナフキンで拭き取りながらAは笑っていた顔を真剣な表情に変えながら話す。

「それにしても本当に今年は亮ちゃんが忙しそうだ」
「それはAもでしょ？」
「またまた。今年何本映画出るつもりなの」
「うーん」
「うーん？」
「6本？7本？」

はあ～！とため息をつきながら椅子の背もたれにどーんと勢いよくもたれかかったAは、「すごいなあ～」と薄暗い天井の電球を見上げた。

そしてそのまままた勢いよく体制を元に戻すと、テーブルに両腕をぱんっ！と置いて。
「亮ちゃんには負けてられない！」
そう言ってまっすぐに俺を見つめた。

素直にうれしいなあ、と思った。
役者としてもっとがんばろうと思えたのは、少なからずAの影響もある。

俺より4年早く芸能界に足を踏み入れたAの背中を必死に追いかけて、姿がようやく見えてきたような気がした。たったの4年、されど4年。この世界の4年は大きい。とても。

目の前の彼女はすぐに「自分なんか」と卑下にするし、ましてや彼女のことならばきっと本当に自分より俺のほうが人気だ、なんて思っているんだろう。

若い層からご年配にも支持されていて大先輩からも評価されているAはやっぱり俺にとっては尊敬する先輩の中のひとりだし、きっと、だからこそ好きに変わっていったわけで。

こんなときだけは照れることなくまっすぐ目を見つめてくるAに珍しく照れくさくなってしまい、火照った顔を隠すようにして目を逸らす。
視界に入った財布と伝票を持って、そろそろ閉店の作業を始めているおじいさんのもとへ向かった。

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