キャンバス (ページ23)

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穴場の喫茶店で国宝との続き

「亮ちゃん、お会計！わたしが出そうと思ってたのに、」
そそくさと支払いを済ませてしまった俺を不服そうな顔で見上げるA。

「そんなん、俺がさせるわけないでしょ？」
「でもせっかく来てくれたのに悪いし…」
「誘ったのは？」
「……よしざわです」
「だからそういうことで」

くす、と笑いながらむくれたままのAを丸め込むようにぽんぽん撫でつけてやると「もうっ！」と言って手を払われてしまう。
しかし諦めてもらえたのか、上がったままだった肩をため息とともに下ろした彼女は「ありがとう」と呟いた。

喫茶店を出て、さびれたビルから遠くで賑わう人の波を見やる。腕時計を見ると短針は9を指していた。

「Aといると時間経つの早いなあ…」
「そうだね、」
役作りのためにばっさり切って短くなってしまった髪を夜風になびかせながらAは微笑んだ。

「ところで吉沢くん、今日はどこに泊まるんだい？芸歴4年先輩の鴻上さんが近くまで送ってあげよう！」
両手を腰に当てて胸を張るAに、「何キャラだよ！」と笑う。

言われてみれば、そういえばマネージャーから何も聞いてなかったな。
スマートフォンを確認すると1件通知が届いていた。

『会議が入ったから先に東京に戻ります。吉沢は明日の撮影にさえ間に合えばいいから適当に帰ってくるように』
「…」
いつもはしっかり者のマネージャーなのに稀に現れるこの適当さ。
驚きと呆れのあまり思わず無言になると、隣にいたAに顔を覗きこまれてしまった。

ほら、とスマートフォンの画面を見えるように傾けてやれば、暗い中で画面の明かりにぼんやりと顔を照らされたA。

「亮ちゃんのマネージャさんでも結構適当なとこあるんだね。百田だけじゃなくてちょっと安心した」
「百田さんは適当なの？」
「適当も適当！」
あははは、なんて青春映画のようにお互い顔を見合わせて笑った。

「あー、適当に帰って来いって言われてもなあ」
「亮ちゃん」
「ん？」
「うちくる？」
これまた裏も表もなさそうな屈託のない笑顔を向けてくるものだ。
「…それって、Aの実家、ってこと？」
「あたりまえでしょ？」

俺の気持ちなんて露知らず、心の中で静かにため息をついた俺を見上げたAはさらに言葉を続ける。
「今から急いで新大阪向かってもたぶん最終の新幹線間に合わないよ」と。
ちがう、A、そうじゃないだろ。

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