キャンバス (ページ16)

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国宝と大阪にての続き

外を歩いていて声をかけてもらえるのは初めてのことじゃないし、がんばってきた成果だと思うしありがたいことだ。
それでも目の前で大好きだと言われるのは、嬉しい、けど、なんだかちょっと照れくさいし恥ずかしい。
人通りが少ないレストラン街をぽてぽて歩きながら高鳴ったままの胸を撫でつけた。

ふとスマートフォンを確認すると、まるで見計らったようなちょうどいいタイミングでブブッと通知が届いた。
『おわった！』
通路の端に寄って立ち止まり返事を返すと、『いまどこ？』とひらがなで立て続けに通知が来る。ひっそり俯いて口角を上げながら文字を打ち込んでいると、一瞬画面が暗転し、着信の画面に変わった。
着信者の名前を確認してから通話ボタンを押すと、電話を繋いだままわたしは早足でテレビ局へ足を進めた。
『終わったよ』
「ふふ、おつかれさま」
『どこですか』
「どこでしょうか？」
『うーん、わかりません』

ガラス張りの大きな建物を見上げながら呟いた。
「…梅田にいたので迎えに来てしまいました」
『え！？』

＊

かぶっていた帽子を脱いで受付にいた若い女性に事情を話すと、思っていたよりも大騒ぎになってしまい、内線で呼び出された警備員さんに連れられて警備室へと案内されたわたしはパイプ椅子に座りながら亮ちゃんを待っていた。

「ご迷惑をおかけしてすみません、」

「迷惑とちゃいますけど、鴻上さんみたいな大女優がおひとりで歩いてこられるなんて危なすぎますよ」
「何かあったらどないするんですか」
「それにしてもCGじゃなかったんですね～！」
「うちの娘が大ファンなんですよ！」
警備室で待機していた警備員さんに取り囲まれ、決して責められているわけではないのに圧力に感じてわたしは肩を縮こませる。

「Aー！」
開いたままの警備室の扉の奥のほうから馴染み深い声が聞こえ、俯けていた顔を上げた。
「お迎え来はりましたね」
笑いながら話す警備員さんに「突然おじゃましてすみませんでした」と頭を下げ、わたしは警備室を後にした。

「あんなん姫迎えにくる王子やんか」
「ほんまにそれですわ」
「若いもんはええですなあ！」
「「「がはははは～！」」」
警備員さんたちに噂話をされていたことにはまったく気づかず。

＊→←国宝と大阪にて