キャンバス (ページ15)

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国宝と大阪にてページ15

ちちんぷいぷいと吉沢亮の続き

ちちんぷいぷい出演の後に何本か宣伝用の撮影が入っていたようで、お互い時間の都合がつかない仕事であることを把握しているわたしたちは待ち合わせの時間を決めずに午後に会う約束だけをして連絡を終わらせた。

MBSは梅田駅が最寄りだ。久しぶりに帰ってきたし、ついでにお買いものしちゃおう。
「よっこらせ！」
ベッドからようやく起き上がったわたしはばたばたと出かける準備を始める。

「A、そんな慌ててどっか行くん？」
「うん、ちょっとMBS行ってくる！」
「せっかく帰ってきたのに～。また撮影？」
キッチンで洗い物をしていたお母さんは、タオルで手を拭きながら残念そうな顔をした。

「ううん、国宝が大阪に来てるんやって」
撮影じゃないよ～と玄関に向かったわたしは、「国宝？」と首をかしげているお母さんに手を振りながら家を出た。

同業者にはいつも驚かれてしまうけど、わたしはあんまり変装をしない。変にマスクをしたりサングラスをしたほうが目に付いてしまうような気がして、視線を集めたくないわたしはできるだけシンプルな装いで街を歩くようにしている。

今日だっていつものようにだぼっとした黒いキャスケットをだけをかぶって、あとは私服で、普通に街を歩いて、普通に電車に乗って梅田を目指した。

休日でもないのに梅田はいつも人が多いなあ。
東京とはまた空気の違う人込みを懐かしみながらショッピングモールをうろうろしていると、背後から「すみません」と声がした。

聞きなれない声に肩をびくつかせ、わたしか？と思いながら「はい」と振り返るとそこには制服を着た知らない女の子がいて、こっそりと自分のスマートフォンの画面を見せてくる。

画面には『Aちゃんですか？』と文字が打たれていて、あまり人の目につかないように周囲を気にしながらこくりこくりと頷くと、目を輝かせた女性は小さな声で囁いた。

「だいすきです…！」

女の子からのまっすぐな視線にしどろもどろになりながらも、その言葉を噛みしめてわたしは手を差し出して口を開いた。
「あの、いつも応援してくれてありがとう」
「い、いえ！がんばってください！」
差し出した右の手をぎゅうっと握りしめた女の子は、すぐに「ありがとうございます」と言いながらぺこっとお辞儀をして離れていった。

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