ベクトルの其の先へ【文豪ストレイドッグス】

1 通りすがりの ページ3

『…それ、恥ずかしくないの？』


とあるヨコハマの街の一角で、とある少女の声が静かに該当者に問いかけた。


「は？」

「部外者は突っ込んでろっての」


三人の女子高生が、一人の女子高生を取り囲み暴言を吐いていたのをAが見つけたのだ。

同じ高校だろうか。
同じ制服を着ている。

Aは静かに近寄ると、もう一度口を開いた。


『恥ずかしくないの？』


機械的に同じ事を少女は発した。
何も感情を含まない表情に、三人はたじろいだ。

その中の一人が、閃いたかのように口角を上げた。


「あんた、こいつのダチ？」


一人の発言に他の二人も納得した様子で、Aに近付いて肩に腕を回す。


「ならさ、ダチを思って金、よこしな」

「そうそう。そうすれば、あんたのダチから手を引いてやるよ」


その稚拙な思考回路に、Aは溜息をついた。


『私が彼女の友達？制服も違うのに？』


その言葉に三人はAの制服を見た。
そして、バッと勢いよく離れると目を見開く。


「っ！その制服…あのお嬢様学校かよ！」

『そンな安直に、声をかけたから友達ッて思うのはなンなのかね』


合理性に欠けるよ。とボソリと呟く。
そして、ポケットから出てくる録音機。

それをチラつかせて、彼女は言葉を吐く。


『そのお嬢様学校に通う生徒に、金をよこせッていう言葉。バッチリ入ッてるけど…まだ何か用が？』


舌打ちをする一人が、その録音機を奪い取ろうと手を上げる。
だが、Aはその腕を掴み、地面に叩きつける。


『何も出来ないお嬢様とでも思ッた？』


冷たい視線が降り注ぐ。
小さく悲鳴を上げたかと思うと、暴言を吐きながら走り去っていく三人組。

溜息をついて、録音機を仕舞うと目の前の少女に微笑みかけた。


『大丈夫？』


先程の表情とは打って変わり、年相応の愛らしい笑顔に、その少女もつられて笑顔になる。


「おかげで助かりました。ありがとうございました」

『いえいえ』


気を付けてね。と云って帰ろうとしたAだが、その少女が引き止める。


「お名前を教えて下さいませんか？」

『私？私は、岸Aだよ』


可愛らしいお嬢さん。
どこか、職場の自決マニアと似た雰囲気を彼女は感じた。


「わ、私は谷崎ナオミですわ！もしよければ、お茶でも！」


ぜひ、彼女にお近付きになりたい。そう強く思ったナオミは粘る。


『あー…うん。いいよ。お茶しようか』


すんなり承諾したAにナオミは安堵した。

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