四十七話 ページ7
「で、京くんさぁ……平然と中に入って行ったけど大丈夫なの?」
神崎さんはそう言う割に、表情は嬉々としていた。
全く何がそんなに楽しいんだか……子供か。
「まあ、大丈夫かと…どうせ廃墟ですから、住宅侵入罪に問われることはないでしょう」
我ながら詭弁だなと思いつつ、僕は何かが出そうな廃墟で足を進める。
神崎さんはそれに軽快な足取りでついてきた。
子供か。
他愛ない会話を交わしながら、虱潰しに廃墟内の部屋を当たる。
すると、今まで目にしてきた扉よりも少し綺麗な扉に当たる。
僕は何気なくそのドアノブに手をかけ、奥に力をかけて開く。
「や。案外早かったね。こんにちは、京くん……あぁ、今はもうこんばんは、かな?」
「んなっ……」
くつくつと、不吉そうに笑う目の前の男……後ろに拘束された妹がいることを考えれば、この男が犯人なのだろう。
不思議と、犯人の不吉そうな雰囲気に当てられると、妹が拘束されていることに取り乱すことはなかった。
「………妹を返して下さい」
「まあまあまあまあ………そう急かさない…ちなみに、京くんの後ろに立っているお兄さんは一体誰かな?」
犯人は、ぬるっとした動きで後ろにいた神崎さんを指差す。
「僕は京くんの雇い主の神崎だ。ただの探偵さ」
「……なぁんだ。てっきり捜査一課の人かと思ったよ…ま、そんなのドラマの中の話だよねぇ」
警察でないことを知って安心したとでも言うように、今度はヘラヘラと笑う犯人。
「……ま、さて…オーディエンスが一人いるけど、別にいっか……ねぇ京くん。昔話を一つさせてよ。そしたら君の妹ちゃん…"しほ"ちゃんは解放してあげるよ」
「なっ!?なんであなたが妹の名前を!そ、それに……僕の本名まで…」
「登場人物紹介を聞けば分かるんじゃないかなぁ。だって僕は京くんのお父さんの親友だもの」
「父の……?」
犯人はまたくつくつと笑う。
「僕がこれからするお話は、君が虚実にまみれた存在だったんだっていうお話だよ」
不吉そうな男……妹を誘拐した犯人……そして、僕と妹の父の親友は、気味悪く言葉を紡ぐ。
「京くんには、色々思い出して貰わなくちゃ」
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