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チーノの家はこざっぱりしている。不要なものは置かない主義なのだ。玄関で靴を脱いだ彼女のコートのボタンを一つ、一つ外してやる。
「自分で、脱げるもん」
「酔っ払いがなんか言うてるな」
「もう」
空から落ちた星を瞳に宿らせ、チーノを見つめてくるのでそんな濡れた瞳にキスを落とす。なんだかAとのキスはいつも塩辛い。
縋るようにシャツを掴んだ彼女の手を、チーノの一回り大きい手が包み込んで…シャワーも浴びずにベッドへと飛び込んだ。
.
..
...
結論から言おう。チーノとAの相性は非常に良かった。恥ずかしがりながらも、自分にできることを懸命にやってくれるAにチーノの心は満たされた。
声も、体も、それこそ彼女の柔らかい石鹸の匂いまで、全てが好みで…。
だから今。鬱陶しいぐらいの太陽が登った朝、疲れ切って眠る彼女のためにチーノはご飯を作っている。すぐに風呂にも入れるように、湯まで溜めた。女と二人で入れるように家を選ぶ上で風呂にだけはこだわったのだ。
「ん…」
「目、覚めたか？おはようさん」
「あれ、チーくん……？」
「せやで。ちゃんと覚えてるか？」
「…んん？」
「おいおい…まさかあれほど、あつ〜い夜を過ごしたんに昨日のこと忘れたんやないやろな？」
からかってやれば彼女は顔を真っ赤にする。そんな反応も可愛らしくてチーノはカラカラと声を出して笑ってしまった。
「体は大丈夫か？ 風呂も沸かしとるし、浸かってきぃや。んで、そのあと飯にしよ」
「…何から何までごめんね」
「ええんよ。俺がしたかったんやし」
「うわあ、できる男」
「せやろ？」
「ちょっと、ウインクできてないよ」
彼女はくすくすと、出会った当初では考えもつかない、ふやけた笑顔を見せた。
あぁ、星が瞬いた。
星がキラキラと輝くように彼女の瞳もまた輝いていて、彼女が遠慮なく笑えるほどにチーノのウインクは不格好だったらしいことを悟る。そんなことを気に留めずチーノもまた笑いを隠さず「なんやと〜」と言い返した。
浴室へと消えて行く彼女の後ろ姿を眺めて、これからの予定を考える。
今日は土曜日。彼女の体が大丈夫ならばどこか出掛けるか、とそんなことを思ってチーノはインスタントの味噌汁の袋を開けた。
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