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｢おかわり｣
｢……よく食べるんだね、ゾム｣
｢ぜんぜんたりひん｣
ゾムがお風呂に入っている間に用意した朝食はものの数分で平らげられてしまった。図々しくも数度に渡るおかわりを所望する彼に仕方なく追加で色々と作ってやったのだが、既に成人男性でも腹を押さえそうな程の量をあの小さな身体に詰め込んで、それでも尚足りないと抜かす。子供と侮るなかれ。そろそろ私の家の食料が尽きてしまいそうだ。
｢でも、こんなたくさんくったの、ひさしぶりや。ありがとな、まほーつかい｣
｢ふふ、そう。因みに私の名前はAだよ｣
｢A。……おん、おぼえたわ。A、めしいっぱいくれる、ええまほーつかい｣
口元にケチャップをつけて無邪気に笑うゾムにつられ、私の口も緩む。拭ってやりたいがゾムはどうやら触れられるのが嫌いらしい。さっきも濡れた髪を拭いてやろうとしたら脱兎のごとく逃げられてしまった。仕方なく傍にあったナプキンを浮遊魔法で浮かせ自らの手を使わずにごしごしとゾムの口元を拭えば、ひとりでに動くナプキンをきょとんとして見つめた彼は首をいっぱいに傾げて目を瞬かせた。
｢これも、まほーなん？｣
｢魔法だね｣
｢さっきおれのてがいたくなくなったのも？｣
｢うん、そうだよ｣
｢……でも、おとうとはおきひん。まほーはすごいけど、なんでもできるわけやないんやな｣
愁情を悟らせる声色に｢ごめんね｣と言ってやることしか出来ないのがとても心苦しい。しかし、しっかりと現実を呑み込むことができているあたりゾムはとても素直で賢い子だ。そんなゾムの為にもっと何かしてやりたい、と赤の他人である私が思うのは、彼からしたら迷惑でしかないんだろうか。
｢なあ、A。おれもまほー、つかえるか？｣
｢え？……ううん、難しいかな｣
｢そっか。おれもまほーが、つかえたら、……｣
何かを言いかけて口を噤んだゾムはひっきりなしに口へ運んでいたフォークをテーブルの上に転がし、そしてじっと目の前の皿に残されたスープを見つめる。
長い前髪の隙間から覗く翠瞳に宿る光はとても朧気だ。今にも、失せてしまいそうな。そんなあまりにも寂しげな表情に、喉の奥でつっかえていた言葉が自然と吐き出される。
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