【長編】答えは温もり 肆 ページ4
「……あ、の。藤原さん……」
「なんだ」
「すみ、ません。その……。色々と、気遣わせてしまって。
僕っ……ぼ、僕なんかの……ために……、
藤原さんの……きっ、貴重な、時間を……ぇぐっ……」
言葉が最後のほうへ向かうに連れて、糸がほつれていくように声が曖昧になっていく。
己が放った言葉自体が何かに引っかかって、ついに堰を切ってしまったようだった。
とうとうはらはら、はらはらと落ち始める彼の涙。
その向かいにありながら、私は乱心することなく思考を回している。
――自虐的な発言というものは、そうそう無から生じるものではない。
少なくとも彼の場合はそうだろうと見える。
“貴様などにかけた時間が無駄だったわ”などと似通ったことを言われたか、
あるいは自信を喪失する何かがあったか。
……いずれにせよ、雨に打たれ続けるほどの何かがあったのには相違ない。
考えなくては。
安易な慰めの言葉はかえって彼を追い込むかもしれない。
それなら、何が出来る？……私に、何が。
今こそ探り、偵う時だろう。
彼に…… 私の大切な友人に、いったい何が必要か。
「……ふじ、わら、さ……？」
徐に立ち上がり、彼の座るソファへつかつかと歩み寄る。
どかりと彼の隣へ腰を下ろすと、彼が驚きに跳ねさせた肩を勝手に掴み、
私のほうへ引き寄せた。
「びゃっ」と動物のような声をあげながら、私の肩へ彼の頭が半ば強制的に預けられる。
いったいなぜこのような仕打ちをするのか、
といったふうに視線だけでこちらを伺う一之瀬探偵に、こちらも目を合わせる。
「……別に……大した意味なんかないよ。
私がそうしたいと思ったからそうしている、それだけだ」
「は……、そ、そう……、ですか……？」
「そうだ。――むしろ、私の我儘に付き合わせているようなものじゃないか。
君も我儘の一つや二つ、言っても良いんだぞ。
……他に誰もいやしない。いたとして、この雨音が掻き消してくれるとも」
片眉を上げつつ、軽く水を向けてみる。
一之瀬探偵はちら、ちら、と周囲を伺うような素振りを見せた後、
隅々まで硬く強張っていた体の力を時間をかけて緩やかに抜き、
改めて私のほうへとしなだれかかる。
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小春(プロフ) - 珈琲さん» 企画主様！閲覧ありがとうございます。（派生作品のご連絡遅れてしまってすみません……！） (2022年8月20日 18時) (
レス) id: fb7c2aa482 (このIDを非表示/違反報告)
珈琲(プロフ) - 描写が素晴らしすぎる…！「その赤は激情か」お気に入りです。 (2022年8月20日 17時) (レス) @page2 id: 3ddce89f00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小春 | 作成日時：2022年8月11日 21時
