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10、月下の異能力者 ページ10

××



まんまと報酬につられた僕は薄暗い西倉庫にいた。
太宰さんは奇妙な本を読み、Aちゃんはトランクを下にして座っている。その横顔は不貞腐れていてまだ怒っているようだった。無理もない、元々彼女は断ろうとしていたのだから。

でも、これから二人で `旅´ を続けていくのなら、ある程度のお金も必要だと思うんだ。


「あの、本当にここに現れるんですか?」

「本当だよ。それに、虎が現れても私の敵じゃあない。こう見えても私は武装探偵社の一遇だ」


その言葉は自信に満ち溢れていて、純粋に格好いいと思った。太宰さんは僕と正反対の人間だ。


「……凄いですよね。自信のある人は。
僕なんか孤児院でもずっと`駄目な奴´って云われてて。こんな奴が、どこで野垂れ死んだって、」

「中島先輩」

「いやいっそ、喰われて死んだ方が、」

「中島先輩!」


Aちゃんの怒鳴り声に、僕はハッと我に返った。怒っているような、泣き出しそうな、そんな表情。


「不幸をウリにするなんて下品だって、私の好きな小説に書いてありました。不幸は口にしたら自分の魂を汚してしまう気がするって。だから、そんなこと云っちゃ駄目です」


その云い方は小さな子供に云い聞かせるお母さんみたいに、あまりにも柔らかくて、優しかった。今までこんな優しい言葉をかけらなかった僕は不甲斐もなく泣きそうになった。

Aちゃんは不思議だ。
僕よりも歳下であるはずなのに、ずっと遠くを見ている気がする。それにまだ会って間もないのに、今までずっと二人で `旅´ をしてきたかのような、そんな錯覚に陥りそうになってしまう。


 「却説(さて)、そろそろかな」


太宰さんが倉庫の窓から見える満月を見上げたのと同時に、近くで物音が聞こえた。


「今……そこで物音が!」

「……そうだね」

「きっと奴ですよ、太宰さん!」


風で何か落ちたんだろう、と太宰さんは本から顔を上げずに淡々と答えた。人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ。

Aちゃんに視線を向ける。
彼女は悲しげな表情で僕を見ていた。
まるでもう一緒にはいれないという風に。
これが一生の別れだというように。

思わずそっと彼女の頬に手を伸ばした。
確かに、いる。七竈Aは、此処に、いる。



「そもそも、変なのだよ。敦くん」


太宰さんは本を閉じる。
Aちゃんがゆっくりと目を瞑った。




**

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黒灰白有無%(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです!!賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます!! (9月8日 3時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←? - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます!!七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あんず | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年6月14日 21時

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