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川島がフラフラの状態でここに来た日の事はよく覚えている。
ほとんど狂乱に近かった状態で、川島は宮近の元に縋るように駆け寄ってずっと「ちゃか、ちゃか」ってそれしか言えなくなったみたいに呟いてはぎゅっと抱き締めていた。
当然、何も覚えていない宮近はいきなり見知らぬ人に愛称を呼ばれた事に酷く動揺していた。
そういえばあの時宥めてくれたのは中村だったっけ。
七五三掛「…如恵留はさ、今のままでいいの?」
川島「何が?」
七五三掛「みんなに思い出してほしい、とか、思ってたりするの…?」
川島「…うーん…」
驚いた様にこちらを見つめた後、川島は暫く視線を御猪口に落として、考え込んでいた。
川島「みんなが選びたい方を、尊重するかな」
七五三掛「…相も変わらずお人好し」
川島「だって、思い出して苦しくなっちゃうのは嫌だし、逆に知りたいのに知れなくて苦しむ姿を見るのも、嫌じゃんか」
その言葉にちょっとだけ心がチクリ、とする。
言わずもがな、吉澤の事だ。
七五三掛「如恵留には、閑也が苦しんでいるように見えてるの?」
川島「ううん、見えてないよ。…閑也は、何だかんだしめの言葉を信じているから」
七五三掛「ねぇ、もしさ、もししずが「生きてた時の事知りたい」って言ったら、如恵留は教えるの」
川島「……きっと、閑也は俺には聞かないよ」
七五三掛「え?」
川島「閑也は、しめにしか聞かないと思う。…あの子、そういうところ気を遣いがちだから。そういう事を聞けるのは、しめだけなんじゃないかな」
真正面から言われた言葉に気恥ずかしさが勝って、七五三掛は何も言わずに顔を背けた。
川島「安心して。いつだってしずはしめの事を1番に考えてくれているよ」
七五三掛「…本当、お節介」
そう憎まれ口を叩いても、川島は肯定も否定もせずにクスリと笑うだけだった。
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作者名:湊都 | 作成日時:2020年9月1日 0時