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川島「何でしめが謝るの?」
七五三掛「だって、俺らみんな如恵留の事置いてっちゃったから」
川島「またこうやって会えたからいいじゃんか」
生憎川島の影は月の逆光で見えない。けど、きっと少し悲しい顔をしているんだと、思う。
七五三掛「……如恵留は、今幸せ?」
川島「幸せだよ。みんなとまた暮らせるんだもん」
七五三掛「…みんな、ほとんど覚えていないのに?」
川島「それでも、しめと海人は覚えていてくれているじゃない」
七五三掛「…」
七五三掛は何も言えなかった。
ただ、あまりにも川島が隠しきれていない哀を滲みだすものだから。
それでも、きっと自分がそう思った、なんて口に出してしまったら川島は余計に抱え込んでしまうだろう。
川島「今日は、冷えちゃうね」
七五三掛「…」
川島「しめがそんな顔してたら、しずが心配しちゃうよ」
宥めるように、川島が遠くに見える御神木を指さしながら言う。
七五三掛「…しずの所為だもん」
川島「こらこら。しずは何も悪くないでしょ」
冷えるね、と言っても動こうとしてくれない七五三掛に、川島はちょっと待っててね、と言うと、炊事場に引っ込んだ。
御神木に僅かに人影が見える。吉澤だ。
きっと、ここでずっと物思いに耽っている自分を心配しているのだろう。
七五三掛「…本当、いつまで経っても、変わんないね」
そう小さく呟いた言葉など、彼に届くはずもないのに。
川島「しめ、お待たせ」
甘い匂いと共に、川島が盆を抱えて戻ってきた。
川島「はい、甘酒。今日白雪神社さんの方に行ってきた時に貰ったんだけど」
七五三掛「…如恵留とこうやってお酒飲むのなんて、何年ぶりなんだろうね」
そう言うと、川島は何処か切なそうに笑って御猪口を差し出した。
七五三掛「…美味しい」
川島「松松には飲ませないようにしなくちゃね」
七五三掛「ふふ…。そうだね」
縁側に腰掛けたまま、2人はちびちびと甘酒を啜る。
それでも、どうも憂いは晴れそうになかった。
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作者名:湊都 | 作成日時:2020年9月1日 0時