第三話 ページ11
七五三掛「…」
川島「しめ、どうかしたの?心ここに在らず、みたいな顔しちゃって」
その日の夜、縁側からぼーっと夜空を眺めていた七五三掛の元にひと仕事終えたのであろう川島が声をかけた。
七五三掛「…如恵留」
川島「うん、如恵留だよ。何かあった?」
七五三掛「うーん…」
言うか言わまいか、みたいな素振りを見せた後、「如恵留ならいっか」と呟いた彼は、川島に隣に座るよう要請した。
七五三掛「あのね、」
川島「うん」
七五三掛「昔の夢見ちゃったの」
川島「…いつの?」
七五三掛「小さい時」
どこか懐かしげに、されど切なげに呟かれた言葉に、川島は「…そっか」とだけ返す。
七五三掛の昔の事──言わば、生前の事を、川島は知っていた。
というよりは、知らざるを得なかった、と言うべきか。
とにもかくにも、川島は彼の幼少期──吉澤が七五三掛の従者だった時の事を、伝聞とはいえ知っていた。
七五三掛「…久しぶりに龍也様、って呼ぶしずの声聞いたらさ、気持ち悪くなっちゃって」
川島「しめ、従者のしずは嫌いって言ってたもんね」
七五三掛「うん。…今は、もう絶対そんな事はない、って、わかってるんだけど」
川島「…」
七五三掛「……絶対そんな事はない、って、わかってるのも、何か寂しくて」
七五三掛が言っている事は最もだった。
彼の生前の事、いや、彼らの生前の事と言うべきだろう、それを「絶対に思い出す事は無い」という事はつまり、自らが1度生を終えた、という事であって。
川島「……そうだね」
何よりも、それをきっと川島は重く受け止めてしまうから。
お互いにだんまりになりながらも、七五三掛は「ごめんね」と小さく落とす。
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作者名:湊都 | 作成日時:2020年9月1日 0時