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「塾?」
「はい」
「ぜってーヤダ…」
「やですね……」
「やなの?」
「……でも、やっぱり」
「うん」
「できることは
中学に上がれば、小学生の間にははっきりしていなかったものが見えてくるようになる。
どんなことがその人の特別なのか、どんなことで目立つのか。世の中ではそれをアイデンティティ、と言うらしい。
周りの子がみんな行き始めたから、なんて、そんな焦りもあったのかもしれない。
「特別」なことが何もない、どこにでもあるような石ころ同然になるのが怖くて。二者面談のあの後に両親に相談してみれば、二つ返事で塾通いを承諾してくれた。
それから一週間、クラス内テストの対策をしておいて、だの、授業の範囲の課題をやっておいて、だの、中学生になる前の第一の試練だと言わんばかりのプレッシャーに四苦八苦してしまい、すっかり放課後の図書室に顔を出せなくなってしまった。
「塾って何すんの。科学実験とか?」
「しません……」
「英語とか」
「それはやります」
「ディスイズアペン、アイハブア…」
「……」
「オーマイガ…?」
「ふふふ」
「笑ってやんの」
身近なことにしがみついて、磨き上げて、なんて、そんなこととは無縁であろう人は、一週間で凝り固まってしまった私の神経をほぐしてくれているみたいだった。それだから私は、突きつけるのが少しだけ怖かったことをぽろぽろと溢し始めてしまっていた。
「……これから、あんまり来られなくなるかもしれなくて」
「……」
「ご、ごめんなさい」
曇り空の様だった思考回路は、もうすっかり正直に、言いたいことを白日の下に晒していた。
佐野くんに会えなくなるのが寂しい。
お話しできなくなることが寂しい。
彼も、少しでいいから同じことを考えていてほしい。
隠し通さなければいけない本音は、みっともなくて見るに耐えないはずなのに。
登場人物の考えていることを書きなさい、そんな問題のように読み取ってくれたらいいのに、なんて。やっぱり私は少しおかしいのかもしれない。
「謝んな」
「え」
「自分で決めたんだろ」
「……はい」
欲しい言葉はそれじゃない。
そう思っているのに、相変わらずぶっきらぼうに投げかけられた言葉に、間違いなく背中を押されているような気がした。
佐野くんは、『マイキー』は、やっぱり無敵だった。
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まめ(プロフ) - 世河経さん» コメントありがとうございます!丁寧に読んでいただいたみたいでとても嬉しいです😭 これからもよろしくお願いいたします! (2022年4月7日 11時) (レス) id: e02a633284 (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 久し振りに感嘆の溜息を吐いたような気がします……作品の持つ雰囲気に刮目しました!是非、更新頑張られてください!! (2022年4月2日 12時) (レス) @page2 id: 1e6cb0271b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みな | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/nymn624
作成日時:2022年4月1日 21時