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「ここまでで平気？」
その後、特に会話が盛り上がることなく、駅に近付く毎に人通りが増えていったことで、二人きりの時間はあっけなく終わってしまった。平気です、ありがとうございました、その言葉に改札の向こう側のアナウンスが被さってきた。くたびれた顔をしたサラリーマンが慌てた様子で、私たちの横を走り去っていく。
「……あの、佐野くん」
「うん」
「今日のこと、忘れません」
「…ん」
「ありがとうございました」
「じゃあね」
「さよなら」
深々と頭を下げ、彼に背を向けて改札に向かう。通学鞄の取っ手にぶら下がったチェーンの先の定期ケースを手に持った途端、一気に別れの実感が湧いてくる。
あの改札を通った途端、１２時に魔法が解けるように、ひとときの夢は終わってしまう。彼との関係は、遠くの月をただぼんやりと眺めるような、そういったものに戻ってしまうのだ。考えただけで言いようのない切なさに押しつぶされそうになるけれど、このまま時間が止まればいい、そんなわがままを言えるほど私と彼の距離は近くない。
これではいけない、と思った。
近くにいてほしい。たくさんお話ししたい。そういったささやかな願いさえもきっと私にとっては高望みで、心の奥底にしまい込んでおくのが丁度いいもので。
欲しくて仕方がなくなる前に、取り返しがつかなくなる前に、引き返さなければ。そう思った。
あのひとは、かみさまなのだ。
迂闊に近付いたら大やけどするような、とてつもなく眩い光なのだ。
そんな思考回路を掻き消すように。足音が迫る。腕を引かれる。
「わ」
「いーんちょ」
その手の温もりが、彼が同じ血の通った人間なのだと思い知らせてくる。
「明日も塾？」
「……？」
「聞いてんだけど」
「…え、えっと、月、水、金だけです」
「そっか」
「……」
「じゃ、明後日また迎えに行く」
「え」
「それじゃ」
彼の残り香に身を纏われ、その後ろ姿をぼんやりと眺める。
じゃあね、いーんちょ。
ずっと前、彼が必ず別れ際にかけてきた言葉。
その言葉を何度も何度も頭の中で反芻させて、腕に残った温もりを抱え込んで。
そうやって立ち尽くしているうちに、乗らなければいけなかった電車は通り過ぎてしまったようだった。
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まめ(プロフ) - 世河経さん» コメントありがとうございます！丁寧に読んでいただいたみたいでとても嬉しいです😭 これからもよろしくお願いいたします！ (2022年4月7日 11時) (
レス) id: e02a633284 (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 久し振りに感嘆の溜息を吐いたような気がします……作品の持つ雰囲気に刮目しました！是非、更新頑張られてください！！ (2022年4月2日 12時) (レス) @page2 id: 1e6cb0271b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みな | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/nymn624
作成日時：2022年4月1日 21時
