26.夢じゃない ページ27
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「おねーさん、ちょっといいですか」
おねーさん。それが私を指す言葉だと理解するまでに少しばかり時間が経ってしまった。それだから、ちょっと、そう言われて肩を叩かれてからようやく、後ろから声をかけられていることに気付いた。
私よりも一回り大きい背丈の男の人だった。タバコの集団とは別の学生服を身に着けた、恐らく高校生。後ろになでつけられた髪の毛は整髪料でぺったりとした光を放っていて、口元ではピアスが光っていた。未知なる生物。そう頭の中で認識せざるを得ない派手な雰囲気の男の人を前に、思わず息を呑んだ。
「は、い」
「ちょっと道教えて欲しいんですよ」
「みち」
「カラオケボックスなんですけど」
俺らこのへんわかんなくて。目の前の男の人の後ろからそう声がかかった途端、今この場にいるのは一人ではないことを知った。彼らが口にしたカラオケボックスの店名には聞き覚えがあったので、私はなんとか分かりやすく伝わるように頭の中を整理した。このただならぬ雰囲気の男の人たちとの会話を、できるだけ早く終わらせたかったからだ。
「え、と、この先に信号が二つあって」
「ハイ」
「通り過ぎた先にドラッグストアがあります」
「あ〜」
「その裏側に、そのお店が」
「はいはい」
「だ、大丈夫ですか?」
「よくわかりました」
ありがとうございます、彼らはそう言って気さくな笑顔を浮かべ、軽く頭を下げてくる。見かけによらず紳士的な対応に戸惑いつつも、その笑顔につられるように私もえへへ、とよくわからない笑みが零れた。「おねーさんは…」それだから、失礼します、そう言って立ち去るタイミングを失ってしまった。
「おねーさんは、この辺詳しいんスね」
「は、はい」
「遊んでるの」
「塾が、こ、この近くで」
「へえ〜、こんな遅くまで」
「はあ…」
「偉いっすね」
「え」
「偉いっす」
派手な風貌の人たちが、嫌味のない誉め言葉を投げかけてくるのがおかしくて、口からは意味のない言葉が零れ落ちるばかりだった。社交辞令というものだろうか。私とこんな話してても、楽しくもなんともないはずなのに。高校生は大人だな、そう思った。
それと同時に、長らく強張っていた心が解されていくようで、少しばかり肩の力が抜けたのだった。
「ありがとうございます」
「いいえ〜」
「あの、それでは」
「疲れませんか、そういうの」
「え?」
「おねーさん、なんかげっそりした顔してるんで」
畳み掛けるようにそう口にしてくる彼らの意図がわからず、私はまた首を傾げた。
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まめ(プロフ) - 世河経さん» コメントありがとうございます!丁寧に読んでいただいたみたいでとても嬉しいです😭 これからもよろしくお願いいたします! (2022年4月7日 11時) (レス) id: e02a633284 (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 久し振りに感嘆の溜息を吐いたような気がします……作品の持つ雰囲気に刮目しました!是非、更新頑張られてください!! (2022年4月2日 12時) (レス) @page2 id: 1e6cb0271b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みな | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/nymn624
作成日時:2022年4月1日 21時