Distance makes the heart grow fonder 2

♯62 ページ17

「そう言えば君の手紙が真実じゃないとわかった根拠がもう1つあったんだけど知りたい？」

思いがけない言葉に戸惑いつつも頷くと、彼が膝の上のスケブを指先で軽くたたいた

「君の絵だ 優しくてみずみずしい繊細なタッチも、線の柔らかさも、僕の【宏光】とCharles'Wainの【北山 宏光】はそっくりだったよ 君の声、手触り、性格、それらを知った上でこの絵を見たら、別人だなんて信じられるわけない」

一瞬納得しかけたがおかしな所に気づく

「でも太輔は6年前に俺の絵を見てないですよね？」
「見てるよ というか今も持ってる 手紙を残してくれてただろ」
「……！」

見つけてもらえなくても仕方がないと思って、イチョウの木に結んだ手紙を、太輔はちゃんと見つけてくれてたんだ
しかも「僕の幸せを祈ってくれてる好きな人のだから、ご利益があると思ってね」なんて、勝手にいなくなった俺の置き手紙を形見にしていただけじゃなく、お守りとして大事にしてくれていたらしい
当時から愛用しているという、仕事用の手帳から折りたたんだ紙を取り出し広げて見せてくれた

広げた途端、無駄吠えしないシェリが「わふっ」と主張の声が上がり、太輔が笑った

「あぁ 見つけのはシェリだよって正直に話すよ」
「シェリが見つけてくれたんですか？」
「うん、6年前検査に行ったら医者の予想よりだいぶ視力が回復してたらしく、一刻も早く完治させるためにそのまま入院することになったんだ 2週間くらいだったかな…無事に視力を取り戻し別荘に戻ったら、君はもう姿を見せなくなっていた 何かあったんじゃないかと近辺を探してた時に、シェリがイチョウの木に結んである手紙を見つけてくれたんだ」

長年大事にしてくれてたお守りは、無意識に印象を残していたらしく、本館ホテルの候補として、Charles'Wainのテキスタイルを目にした時に太輔は強く心を惹かれたのだという

「…仕事に私情は挟まないって言ってましたよね？」
「もちろん、だが同レベルのものが並んでいてその中から選ぶなら【好み】のものになるのは当然だろう？ 僕がCharles'Wain を最終候補に残したのはそれだけ品質が良かったわけだし、その時点では宏光がデザインしていたとは知らなかったよ」

ほっとすると髪を撫でられ
「こんなに繊細なのに【仕事の為に宏光のフリをした】なんて言っても、信じられるわけないよね」

確かに我ながら情けない下手な嘘をついたと思うけど、やり手の恋人にはどんな嘘も見抜かれてしまうのだろう

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