Distance makes the heart grow fonder

♯45 ページ46

夜中近くに帰宅して、便箋と封筒を取り出す

どういう理由にしたら突然”別れたい”と言い出すのに説得力があるか、悩んでは書き直しをして、便箋を1冊描き潰してしまうほど
上手に嘘が付ければいいのにと本気で思った

結局悩みに悩んで出した答えは
俺が太輔の探していた【宏光】じゃなかったことにすることだった

再会した夜から始まった2人の関係は6年前のことがあるから
太輔のイメージにハマった俺が【探していた宏光】ではないって言うことを理由次第では俺が最低な人間になると気付き、それで書き始めた


『俺は貴方が探してた本当の宏光ではありません。本館ホテルのコンペで優遇して欲しくて、貴方の探していた人と偶然にも名前が一緒だったのを利用させてもらっただけです。ごめんなさい。これ以上騙し続けるのが辛くなったので、真実を明かすことにしました。』

勿論嘘だ
だけど我欲の為に嘘をついて彼の気持ちを利用した偽物と分かれば、太輔の気持ちが冷めて更に軽蔑するだろう
好きな人に軽蔑されるのは辛いけどやるしかない

自分が関わったテキスタイルだからどうしても採用されたかった
採用されれば実績が出来るから独立するきっかけにもなると思った…などとそれらしい理由を書き連ね、最後に独自の判断で動いたから、Charles'Wainとは関係ないということも書いた

仕事の野望の為に嘘をつき、太輔を利用したテキスタイルデザイナー
そんな人物が手紙の中で出来上がっていた



滝沢社長と話した日から1週間
毎晩遅くまで残業をして、なんとか全ての業務を片付け、引き継ぎと挨拶などを終えて俺はCharles'Wainを退職した

「これからもフリーのテキスタイルデザイナーとして付き合いがある」という話が通っていたおかげで、同僚達の見送りも明るかった

送別会の帰り道、家の近くのポストへより手紙を投函する
別れの手紙は退職する日に出すと決めていた

フランスから帰って来るまで後1週間、その後に読まれるこの手紙にはもう二度と会いたくないだろうと思わせるくらい、酷い俺が書かれてる

太輔は俺に沢山の愛を注いでくれて、それを零すことなく受け止め、俺も出来るだけのことはしてきた

そして今、太輔の将来のために出来るのは、自分から離れること…

「太輔がずっと幸せでありますように」
もう二度と会えなくても、彼の幸せに関わることが出来なくても
太輔の幸せを心から願いを込め祈り、踵を返した

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