Distance makes the heart grow fonder

♯43 ページ44

誤魔化しは効かない…かといって沈んでる理由を白状することも出来ないから、今いえる事だけを口にした

「……今はまだ話せないけど、でも近いうちにちゃんと言いますから…」
「絶対？」
「絶対です」
「…分かったよ」

ため息混じりに呟いて、くしゃりと髪を撫でられた

「本当は頼って欲しいけど、宏光がそこまで言うなら今は聞かないでおくよ」
「…ありがとうございます……」

太輔の紳士的な優しさに泣きそうになったけど、なんとか微笑んでお礼をつたえる
彼はなんとも言えない複雑な表情を浮かべたけど、約束通りもう何も言わなかった

深いキスを重ね、彼の身体が俺の中に戻ってくる
太輔にしか与えられない、身も心も満たされる深い快楽

ずっと忘れないように恋人の全てを心に刻む

優しく触れる手
愛撫するような低い声
甘い囁き
熱を帯びると更に濃くなる黒曜石の瞳

手に入るなんて思ってもなかった人だ
彼に愛されるなんて、夢のような奇跡だった

大好きな人だから誰よりも幸せになって欲しい
太輔から愛してもらった思い出があるから、自分はちゃんと生きていける
最初から終わりが来るとわかっていた恋

十分に愛してもらった
だからもうこれ以上望んではいけないのだ



今朝空港に向かう太輔をいつもの様にスイートルームのドアのところで見送った
ちゃんと笑顔で


通勤途中、泣きたいような叫びたいようなぐちゃぐちゃの感情があふれそうになり、深呼吸をする
自分でも驚くくらい情緒不安定になっていた

でも別れの手紙を出す前にやるべき事がある

─会社を辞めること─

太輔は公私混同するような人ではないけど、一方的に別れを切り出す俺がいると勤め先の印象が悪くなるのは否めない
だから自分はもう関係ないということをハッキリする為に退職をしなければ

テキスタイルデザインはやりがいのある仕事だし、Charles'Wainという職場も大好きだから、辞めたくはないが、迷惑もかけたくなかった



「出来るだけ早く辞めさせて頂きたいんです」とチーフに伝えたが、説得しても聞かないと判断され、その日のうちに滝沢社長に報告された
すぐに社長室に呼ばれる

「北山、うちを辞めたいように見えないんだけど？俺のせい？」
自社製品と社員をこよなく愛してる社長が、答えにくい問い方をしてくる

「いえ、気のせいじゃないです」
「だよね、最近の北山のデザインはこれまで以上に充実してて幸せそうだったし、なのに辞めたいと言い出さなきゃいけない理由があるのか？」

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