Distance makes the heart grow fonder

♯29 ページ30

会社についてしばらくするとテキスタイル部門のデザイン室に勢いよく飛び込んできたチーフが、興奮気味に報告してきた

「なんと！藤ヶ谷財閥の本館ホテルにうちが選ばれちゃいました！」
ハイテンションな声が響き渡るなり、わぁーと同僚達のどよめきと歓声が続いた

一昨日のパーティーに招待されていた企業の中には最大手や、繊維業界TOPの会社もいた中で、全てのテキスタイルを一手に担う事になったのだ

アパレルメーカーなので、バスローブや浴衣、ガウンなどの室内着やスリッパを採用される事を目標に参加していたのだか、”統一感のある和風デザインの良さを生かしたい”ということで、シーツや枕カバー、タオル、クッション、カーテンetc
とにかく全面的な採用となり、期待以上の結果に社員たちは興奮気味

「北山の手柄だよ！」
バシンとチーフに肩を叩かれて、唖然としていた俺は慌てて笑顔を作る

今回のテキスタイルは俺の提出した案が元になっているからこその労いだろう
選ばれたのも褒められたのも嬉しいのに、酷く複雑な気分だった

(…太輔は仕事に私情を挟まないと言っていたけど…)





就業後、太輔にメールで連絡を入れた
電話だと仕事の邪魔になるといけないと思い…
数分もしないうちに返事が来た
【7分待って】

短い返事は今忙しいということだろう
場所の指定はなかったが、会社で待つのがいいだろうと弊社の正面エントランス前で待つことにした

しばらくすると会社前に大きな車が停まった
運転席から降りてきたのは、太輔によく似た人──
友輔さんだ

俺に気付くと礼儀正しい笑みを浮かべ近付いてきた

「こんにちは、北山さんですよね？」
「はい」
「副社長に頼まれてお迎えにあがりました」

(様子を見ながら少しずつと言ってたけど何も知らされていないのかな…)

おろおろした俺に車の後部ドアを開けてくれる


なめらかに発進した車の後部座席からバックミラーにちらっと映る友輔さんに目をやる
するとミラー越しに目が合い、びくりと身をすくませる俺に笑みを浮かべ口を開く

「貴方が兄の探していた【幻の宏光】だというのは本当ですか？」
「幻の宏光……？」
「何年か前に兄の前に現れて、突然姿を消したんでしょ？別荘にいた執事たちも知らなかった存在ということで、私達はそう呼んでいるんです」

なんか凄い通称になってる事に困りつつも頷いた

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