Distance makes the heart grow fonder

♯2 ページ3

「え？ひょっとして...」
「あっいい所にスタッフ来たからこれ渡してくるぞ」

態とらしく話を遮り、飲み物トレイを持っていたスタッフの所へ行ってしまった

ふーん山下はいい方向へ向かったんだな…
片想いをしてた時期を知ってるだけに上手くいってよかったなと自分のことのように嬉しくなる

その後社長に捕まるのを見て、こりゃしばらく離してもらえないなとほくそ笑んだ


ここに来たのは勤めているアパレルメーカーが招待されてるので、社長や上司、社員数名いる
俺はテキスタイル部門の参加メンバーの一人、デザイナーとして呼ばれていた


山下が捕まったのもあり手持ち無沙汰で周りを見渡すと視線の先、大きなフランス窓に止まった
その向こうは中庭に接してるみたいで、人の熱気にも少しやられてた俺は、引き寄せられるように向かいフランス窓のノブを回すと開いた

すーっと掠めた冷たい風が心地よくそのまま中庭へ向かい窓を閉める
すると室内の喧騒がほとんど聞こえなくなり、微かに聞こえてくる音楽により、また違う世界へ誘ってくれた気分になった

ライトアップされ、咲き誇る花々がとても美しく、それと重なるように先程目が合った美貌の人を思い馳せてみる

(よかった...太輔元気そうで)

6年前美大生だった俺は夏休み母の実家へ遊びに行った時、目元を包帯で覆われた背の高い優しい彼に叶うはずもない密かな恋心を抱いてしまった


「また会えるなんて思わなかったよ…」
ほろ苦いがいい想い出だ


中庭を見つめていると頭の中に色んなデザインが浮かび、それを織り込んでいく
この中庭のイメージで作るなら…

と没頭しているとガチャリとドアの開く音が聞こえ意識が戻る

目を向けると僅か開いたところで呼び止められたのか、ノブを持つ手だけが見える
そして呼び止められたその人にむかって

「少し外の空気を吸いたいだけだよ…すぐ戻る」

聞こえてきた声に心臓が大きく跳ねる
そして現れたその人を見て息を呑み込む

やっぱり彼だ...この声を忘れたことは無い
明かりの届かない隅にいた俺に気付くことなく、フランス窓を閉め、疲れた様子で息を吐いた

パーティーに疲れた彼は休憩しにきたのか、中庭をぼんやりと見つめている
(ど...どうしよう)

招待客としてはここで挨拶をするべきなのかもしれないが、主催者側からすると気を緩めたところを見られるのは嫌かもしれない
どうしようかと迷っていると気配を感じたのか彼がこっちに目を向けた

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