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♯6 ページ6

しばらく無言で見つめあったままの俺たち
なにか話さなきゃと焦るけど、どこから話せばいいのか悩んでいたら、藤ヶ谷の方からきっかけを作ってくれた

「えっと北山さんとは仲が良かったのかな?」
「…そーだね、いつも一緒に行動してた方だと思う」
「事故の時も一緒だったみたいだね」

記憶から「俺」が無くなった藤ヶ谷は、それでも何か思い出そうと消えた記憶を呼び戻すために更に言葉を発した

「北山さんのことなんて呼んでた?」
「きた…ひろって呼んでたよ」
「ひろか…俺のことは?」
「たっ…太輔って…」
「そっか…ひろごめんな 思い出せなくて」

記憶を取り戻す為に嘘は良くないことは分かっている
でもそれでも呼んで欲しくて
思い出せない藤ヶ谷に”ひろ”と呼んでもらい、後ろめたさを感じながらも嬉しくなる

「無理することは無いよ 俺今日で退院するけど、毎日来るからた…太輔の記憶戻る手助けするよ」
「ありがとう 正直記憶がなくて不安だけど、ひろがいてくれるってだけでほんと安心出来る ありがとな」

その後藤ヶ谷の診察が始まるまで、少しでも記憶を呼び戻そうと記憶を失った大学での事を話し、明日また来るからと約束して帰った

久しぶりに家に帰ってやることはあるけど、記憶を失くした状態とはいえ、再び目を覚ましてくれた事に安堵しはらはらと今頃になって涙が出てきた

「よかった…ほんとよかった…」

藤ヶ谷に付いた我欲の小さな嘘
記憶が戻った時藤ヶ谷になんて言われるか

少し気になりつつもその後毎日藤ヶ谷の所へ通う頃には、昔からそう呼んでいたと思えるほど自然になり、気にもとめなくなっていた

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作者名:pearl | 作成日時:2022年12月6日 8時

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