a false lover (ページ5)

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♯5 ページ5

退院する前日も藤ヶ谷の病室へ

「おはよう藤ヶ谷、今日もいい天気だよ」

顔に傷のない藤ヶ谷は寝ているようで、とても綺麗だ
そーっと頬に手を伸ばし、生きていることを確かめる

すると眉間にわずかながらしわが寄り、瞼がぴくぴくしだした
「っ、ふ…藤ヶ谷！藤ヶ谷！！」
頬に触れていた手を藤ヶ谷の左手を握るのに変え、声をかける

「藤ヶ谷！目を覚まして」
「……」
「藤ヶ谷ぁ、お願い目を開けて」
「……うっ……」
「藤ヶ谷！！」

慌ててナースコールをし、看護師さんを呼ぶ
程なくして訪れた看護師さんが藤ヶ谷の様子を見て主治医を呼びに行った
その後先生が訪れたと同時に病室を出された

事故から1週間以上経ち、藤ヶ谷は意識を取り戻した
その後主治医の診察やら、看護師の出入りが激しくなり、その日は結局会えずに終わった

退院日荷物をまとめ看護師さん達にお礼を伝え、病院を出る前に藤ヶ谷の病室へ向かうと、病室から出てきた藤ヶ谷のお母さんが俺の顔を見て走りよってきた

「北山くん…今日退院？おめでとう」
「はい、ありがとうございます先にすいません」
「そんなこといいのよそれよりちょっといいかしら」
「はい、何かありましたか？」
「実は…」

話によると意識が戻り検査をした結果、脳に異常はなかったものの、衝撃で一部記憶が抜けているということが判明した
この数年、大学に入ったあたりくらいから記憶がないらしい

ということは大学で知り合った俺のことも忘れてるみたいだ

「北山くんには辛い思いをさせるかもしれないんだけど、記憶を戻すために太輔に会ってもらえるかしら」
「そんなこと俺も会いたいし、是非会わせて下さい」

お母さんの後に続き病室に入ると昨日まで寝ていた藤ヶ谷が、ベッドで身体を起こし窓の方に目を向け座っていた

「太輔、お友達がお見舞いに来たわよ」

その声に反応し振り返った顔を見て、思わず駆け寄った
「……」
俺を見つめる藤ヶ谷は、この人は誰だろうと思案してみるが、思い出せないのか

「あの…どちら様ですか？」
「…北山…宏光、大学の友達」
「そうなんだ、母から聞いてるかもしれないけど、事故のせいで大学入ってからの記憶が抜けてて思い出せなくてごめん」
「ううん、大丈夫だよ」

藤ヶ谷のお母さんが気を利かせ、病室を出ていった