▼.逆さまワールド ページ28
街の夜景が綺麗な夜は、空の星が少なく見える。キラキラと眩しい街は、此処から随分と遠い。
高層ビルの屋上、フェンスを越えた場所で街を見下ろす。震える口から零れた息が、白くなって、やがて消えた。
このフェンスから手を離して、風に体を曝せば、すぐにでもこの命は落ちていくだろう。
……もう、嫌だ。あんな会社、あんな上司、あんな同僚。
早く、早く、さよならしよう。
こくり、と息を飲んで。
ゆっくりと、フェンスから手を離し、体を傾ける。
世界が、落下していく。
重力に従って落ちていく体。コートがバタバタとうるさくはためく。強い圧を受けながら、それでも目を見開いて、手を地面に伸ばす。
キラキラと輝く街に、もう少しで手が届く。
_______かくん、と。
唐突に落下は止まり、誰かに抱擁されている感覚に息が詰まる。
「え、」
「悪ィな」
私は抱き締められたまま、文字通りの浮き足だった感覚にぞっとする。浮いている、なんてそんな、お伽噺じゃあるまいし。
「少し付き合ってもらうぜ」
「え……え?」
そう言ってニッと笑みを浮かべたその人は、私を抱え上げて、すい、と夜空を歩き出す。何が何だかわからない私は、その人の靴の下にある地面を見下ろし、息を呑んだ。
いつの間にか、さっきの屋上なんかよりも高いところに来ている。無意識のうちに彼の首に巻き付けた腕に、力が籠る。
すると、その人の薄い唇が動いた。
「その程度で身投げとは呆れるなァ」
「!!」
ハッとしてその顔を見て、その人の馬鹿にするような表情に、自分が情けなくなる。顔を逸らし、腕をほどく。
そして、その人の腕から逃げ出した。
その途端。
ひゅう、と風の切る音。
「いやっ……!?」
宙を歩いていた感覚が消え、また空が遠ざかっていく。視界の先で、空に紛れた黒い外套も落下を始める。
……怖い。
いつの間にか、恐怖に支配されていく。落ちてくる外套に、助けを求めるように手を伸ばせば。
「まだ死ねない、だろ?」
分かってましたと言わんばかりに、その手が捕らえられ、ぐい、と引き寄せられる。
ぎゅう、と先程よりも強い抱擁。
いつの間にか落下は止まり、緩慢とした時間が流れているように錯覚する。
「な、んで……」
私が小さく呟けば、その人は、くつくつと笑う。その顔さえ美しいのだから、私は死ねない。
「そりゃ、一目惚れだからな」
2019/11/4 硝子屋
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硝子屋(プロフ) - 猫また猫さん» 了承ありがとうございます。リクエストですね、少々お待ちください…… (2020年2月24日 23時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - すみません夢主ちゃんと社長は結婚していない設定でお願いします (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - 硝子屋さん» リクエスト失礼しつれいしますね!!福沢社長で子どもを預かる話をリクエストしたいです社長と夢主ちゃんは結婚している設定で (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫 - あ、全然混浴でなくても大丈夫です!無理をさせてしまいすみませんでした (2020年2月24日 15時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - 乱歩信者さん» リクありがとうございます!少々お待ちください…… (2020年2月20日 21時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:硝子屋+ソーダ | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月25日 6時