90話 ページ44
くしゅん!と大きなくしゃみが出て、小さく体が震えた。
「あら、大丈夫?風邪かしら」
「多分大丈夫、です!」
誰かに噂でもされたのだろうか、と思いながら、手にした雑巾をバケツに入れる。中の水はすぐに赤く染まって、変えの水が必要になってしまう。
「意外と落ちないですね」
「そうね。……ねぇ、A」
「はい?なんですか、ラディアさん」
「目の前で人が亡くなったにしては、落ち着いているわね」
「……まぁ、昔々に、色々ありましたから」
「そう」
ごめんなさい、と言って、彼女は水を変えてくるとバケツを手に部屋を出て行った。
あの後。
顔を青くして飛んできたきんときさんにメイドたちが事情を話し、私も少しだけ見てわかった情報を出した。ぶるーくさんにも話を聞いた後、メイドたちに一度部屋に戻るよう指示して彼は慌ただしく部屋から出ていった。
すぐに城中の使用人が使用人用の部屋へと集められ、ことの顛末を____アニカというぶるーくさんの専属メイドが、彼に毒を盛ったことが知らされた。彼女について何か知っていたら申し出るように、とも。
困惑する使用人たちに、ラディアさんがぶるーくさんの部屋を掃除してくれる者がいないか尋ねた。皆が君悪がったり、あるいは怯えたりして手を挙げなかったので、私が立候補した。
我ながら嫌な話だが、死体は見慣れているし、血についてはもっと見慣れている。
そう思ったのだが、予想に反して再び入った部屋には血の痕があるだけで、遺体はどこにもなかった。彼女の遺体は、国の共同墓地へと送られたそうだ。
綺麗に切られたからか、噴き出た血の量はさほど多くはない。しかし、汚れを拭き取れないカーペットは処分することになり、幾つかの家具にも血が染み込んでいたため、それらの処理をすることになった。
_____殺し方には色々ある。相手をとことん痛めつけるものも、眠るよりも素早くするものも。前者を行おうとした相手に後者で対応したのは、ぶるーくさんなりの慈悲だったのだろうか。
特殊な薬液をつけた雑巾で、ひたすらにこびりついた血を擦る。なかなか取れない汚れに、このやろ、と声をかけてガシガシやっていた、とき。
不意に、背中に重みを感じた。前に回された腕と、あたたかい温もりも。
誰だろう、と考えて、思い当たる。
「……ぶるーく、様?」
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すみれ - 続編おめでとうございます!この作品とても好きです! (2022年10月23日 21時) (レス) @page2 id: a70cb7c9e5 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - あの、ちょいちょき面白くてクスッと笑ってしまう所がありとても好きなお話です。これから続きを読んできます! (2022年7月19日 21時) (レス) @page50 id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
まほ(プロフ) - めっちゃこの小説が大好きで、この小説を読むでいる時間が一番幸せです(^-^)これからもよろしくお願いします (2021年9月16日 16時) (レス) id: dab527b906 (このIDを非表示/違反報告)
サンセットマリン - スカ一さん» はい、大丈夫です。よろしくお願いいたします。 (2021年9月16日 6時) (レス) id: 58697e3d5e (このIDを非表示/違反報告)
スカ一(プロフ) - サンセットマリンさん» おはようございます、お世話になっております。ご了承頂きありがとうございます。では、今回の件はこれにて終了とさせて頂きたく思います。また、作者名、作品名を伏せて事の経緯の説明を当方の作品内でさせて頂いてもよろしいでしょうか? (2021年9月16日 6時) (レス) id: c3f5308968 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サンセットマリン | 作成日時:2021年9月7日 18時