にじゅうご ページ27
見上げてみればこの木、意外と高さがある
やっぱりもっと動きやすい服装にしてくるんだったな、と再び思いながら助走をつけてこの辺りだろうというところでサッカーボール目掛けて飛んだ
指先でトン、とボールを木の枝から落として着地すると背後から「おぉ！」と感嘆の声が上がった
『はい。もうあんまり飛ばしすぎないでね』
サッカーボールを子供たちに渡して、私は地面に雑に投げられたカバンを拾い上げた
「ありがとうございました！」
とお礼を聞きながら軽く手を振り今度こそ公園を後にする
……さっきのあの子、メガネの子
私がカバンを拾って背を向けようとした時にまた一瞬目が合った。他の子達と何かが違う気がした
まるで何か探られているような、何かを見定めてやろうとでもいうのだろうか。刺さる視線に気が付かないふりをした
"相手に対しても、だよ。お友達が無理しそうなら止めてあげることも大切なの"
駐車場に戻り、車を走らせながらさっき子供たちにかけた言葉を反芻する
私は、止められなかった側の人間だ
いや、気づけなかったのだ。彼がどれ程のものを背負っていたのか
今はもう夢にすら滅多に出てきてくれない
それもそうだ、私は彼のことを詳しく知らない
彼と……景光さんと出会ってから突然連絡が取れなくなるまでの期間はとても短いものだった
好きな食べ物も、嫌いな食べ物も、誕生日も、何も知らない
彼は自分の話よりも友人の話をたくさんしてくれた。警察学校時代の同期の話、特に幼馴染の話が多かった
楽しそうに、懐かしそうに、時々悲しい顔をしたり…その人の話をしている時だけ少し素の彼が垣間見えたような気がしてちょっと羨ましいな、なんて思ってしまった
その幼馴染のことを景光さんは"ゼロ"と呼んでいた
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作成日時：2024年2月28日 19時
