【文スト】幸せ恐怖症 vol.3《条野採菊》

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葡萄色(えびいろ)の外套がふわりと宙を舞う。

音もなく降り立ったその人は、同じ色をした軍帽の鍔を下げ、薄ら笑う太宰と怯えて縮こまる敦に向けて不敵な笑みを浮かべた。





「じょ、条野さん…？！」


「そうですよ。こんにちは、Aさん」



急に真っ暗になった視界に驚き、焦って目元に置かれた手を掴む。

退かそうと引いてみれば、特に抵抗もなくあっさりと剥がされたそれ。突然の眩しさに目を白黒させていると、今度は胸元に置いていた手をｷｭｯと握られた。






「偶然ですね。今日は街にお出掛けでしたか？」


「え、、ぁ、はい……用事を済ませて来た帰りです…」



緩い笑みを浮かべた条野さんに顔を覗き込まれた。

いつも通りの穏やかな表情とは裏腹に、肩や手を捕まえている彼の手にはやんわりと力が篭もっている。


ﾋﾔﾘとした冷気に背筋を柔く撫でられ、疚しい事なんてないのに言い訳じみた口調になってしまった。





「随分と見せつけてくれるねぇ。それで、彼が君の言う引き留めてくれる人かい？」


「そ、うですね。この方がいなければ、貴方の手を取っていたかもしれませっ…？！」




刹那、ｷﾞﾘｯと痛いくらいに手が締め付けられる。

驚いて条野さんの方を仰ぎ見れば、その秀麗な顔には影が落ちていて、僅かに薄笑を浮かべた表情はぞっとする程冷たかった。


無意識に距離を取ろうとする私の身体に気づいたのか、肩にあった彼の手は腰に移動し、離れた分は容易く引き戻された。

同じく嘲るような浅い笑みを浮かべた太宰さんや終始真っ青な顔で震える中島さんへ見せつけるように、ぴったりと身体を寄せられる。

傍から見たら熱烈な恋人同士の戯れだが、当人からすればたまったものではないし、蒼白になった顔の中島さんがいい加減可哀想に思えてくる。




「……これはこれは。かの武装探偵社の方ではありませんか」


「其方こそ。いつもご贔屓頂いている軍警の、しかも最強の特殊部隊と謳われる猟犬様じゃあありませんか。しかしそんな方々が1人のか弱い女性を囲っているとは。いやはや、驚いたものだよ」


「私も驚く事ばかりです。貴方が青空の下を歩き、探偵社員として人々を救う側にいるのですから。証拠さえあれば直ぐにでも拘束できますのに」


「それはそれは、残念だねぇ」


「えぇ本当に」




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