* ページ12
〇
そう云った後の彼の行動は……とても早かった。
手を掴まれたと思えば既に引き寄せられていて、条野さんの懐に飛び込む。
その状況に直ぐに気が付いて逃げようとしたが、腰に手を当てられていて逃走はおろか、距離をとることすら不可能に近かった。
「___こうやって抑え込まれれば、貴女はどうすることも出来ないでしょう。いとも簡単に捕らえられそして、拐かされる」
数段低くなった声が、私の耳元で囁く。
ちりん、と直ぐ近くで聞こえた小さな鈴の音が、彼との距離の近さを物語っていた。
「…」
私は黙ってしまった。
彼を攻撃する訳にもいかないし、こういう時どう対応すればいいのか、私には分からなかった。
ただ、条野さんが少し怒っている気がして何故か申し訳なく感じる。
「……離してください」
漸く口に出せた言葉は、拒絶。
この近さのお蔭で心臓が五月蠅いし、何より頭がまわらない。
取りあえず、落ち着きたかった。
「誘拐犯に"離して"は通じませんよ」
「条野さんは私を誘拐するのですか?」
「……いえ、しませんが」
「なら条野さんには通じるはずです。
語気を強めて同じことを言えば、「一本とられましたね」と苦笑いをして条野さんは私を解放した。
そして懐からある紙片を取り出す。
「連絡先です。危険だと思ったら知らせてください」
「要らな「じゃあ一緒に帰ります?」……有り難う、御座います」
条野さんなりに譲歩した結果、なのかな。ほぼ脅されたようなものだけど。
差し出された紙を渋々受け取り、ポケットに仕舞った。
「では、道中気を付けてくださいね?」
お邪魔しました、と言って条野さんは店を出た。
先程まで賑やかだったが、今は空調の音だけが響く店内。
私にとってあの方たちは迷惑でしかないのに……ほんの少し寂しいような。
________"寂しい"?
ここ数年は感じなかった気持ちに驚いた。
それと同時に不安の波がじわじわと押し寄せ、脳を支配する。
「―――…私には向かないな、分かってたけど」
胸元に置いた手で服を握りしめた。
襲い来る"負の感情"をやり過ごすために、必死に耐える。
飲み込まれないように、取り乱さないように。
__あぁ、やっぱり私に"幸せ"は似合わない__
〇
301人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
オタク - コメント失礼します!まだ一編目しか読めてませんが、すでに沼にはまってます!!言葉選びとか、キャラの口調をしっかりとらえてるところももう、すごくいいです!素敵な作品をありがとうございます!二、三弾目もじっくり楽しみながら読ませていただきます! (10月15日 6時) (レス) @page50 id: 7a68ba3320 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - ショートケーキの赤いヤツさん» 同じく刺さってます笑、彼のS属性(笑)を薄っすらと出しつつグイグイ行って貰おうと思います!これからも宜しくお願いします(*^^*) (2021年8月21日 23時) (レス) id: 64577bab6f (このIDを非表示/違反報告)
ショートケーキの赤いヤツ - 条野さんのS感ヤバいですよね……刺さる←条野さんが推しなので更新楽しみにしています! (2021年8月21日 16時) (レス) id: 0727e3cb02 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - うり太郎さん» コメント有り難う御座います!そう云って頂けて嬉しいです(*´ω`*)更新途中ですが続編も是非宜しくお願いします!も (2021年8月21日 0時) (レス) id: 64577bab6f (このIDを非表示/違反報告)
うり太郎(プロフ) - ヤバい・・・・・・!尊い・・・・・・!こんな神作品を作れる作者様マジでリスペクトします!!今読み途中なんで今すぐ続き行ってきます┗(^o^ )┓三 (2021年8月19日 23時) (レス) id: ccbe99882f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハル | 作成日時:2021年1月7日 23時