艶恋味。

４１ 北山side ページ41

.


"オムライス"は全てを思い出すから嫌いだ。





.






「……またオムライスかよ」




嫁の真唯がもえのことを妊娠中
仕事から帰ると毎日のように用意されてたオムライス。




「だってオムライスしか食べたくないんだもーん。
毎日気持ち悪いし、オムライスしか受け付けないし
こんなに妊娠が辛いと思わなかった」

「しばらく実家戻ったら？
その方が楽だろうし、俺も安心だし」

「やだよー、私がいなくなったら宏くん浮気するでしょ」

「は？しねぇよ」

「ふふ、うそうそ。
でも宏くん自炊しないし、毎日カップラーメンとかお弁当ばっかりで栄養偏りそうだし私が心配」

「オムライスばっかりでも栄養偏りそうだけどな」

「そんなこと言ってるけど、なんだかんだ毎日オムライスに付き合ってくれるよね」




優しいー、って茶化されてながら毎日口にした。





.






「今日からあなたの名前は"もえ"だよ」




そんな中無事に子供も産まれて




「もえー、今日なに食べたい？」

「オムライス！」

「おっけー！
あ、でも卵ないんだった。宏くんあとで買ってこれる？私今日、病院行かなきゃで」

「うんいいけど、病院？」

「健康診断で引っかかったの、なんでもないと思うんだけど一応結果聞いてくる」

「ふーん、じゃあもえ後で一緒に買いに行くか」

「うん！」





"幸せ"かどうかなんて分からなかったけど
真唯がいて、もえがいて毎日笑ってて。

失ってから気付く、あんなにも"幸せ"だった日々。





「もえ、オムライスばっかで飽きね？」

「ぜんぜん！ママのオムライスおいしいもん！
ママがね、もえがお腹にいる時にオムライスばっかり食べてたから
もえの体はオムライスで出来てるっていってた」

「ふは、まぁ確かにそうだろうな」




卵を買いに行きながらそんな話をして
これからもきっと、こんな毎日が続くと思ってたのに、




「………宏くん……、」




再検査は全然大丈夫なものじゃなかった。

宣告されてから僅か一年ほど
あっという間に真唯は、俺らの前からいなくなってしまったんだ。

４２ 北山side→←４０

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す